医師のキャリアと家事育児について、医師たちの現状を聞く本シリーズ。後編では医師438人が回答したアンケート(※)から、仕事のキャリア形成と家庭の両立について考えます。
※2020年11月7~14日、m3.com会員の医師を対象にエムスリーキャリアが実施
キャリアと家庭の両立は、職場風土も関係
現在、仕事のキャリア形成と家庭(家事・育児)は両立できているかを尋ねたところ、半数近い49.5%が「できている」と回答しました。
夫婦で役割分担のバランスがとれている人が「できている」と回答した一方で、物理的に時間がとれない、職場の理解が得られない人が「できていない」と回答しました。仕事と家庭の両立は、家庭内の分担・調整だけでなく、勤務先の風土にも左右されそうです。
各項目の回答理由は以下の通りです。
とてもできている
- 特に家事で仕事に支障が出ることはない(40代女性/呼吸器内科)
- 夫が協力的である。キャリア選択がうまくいっている(40代女性/消化器科)
- 家事のほとんどを妻が行ってくれている。子供は成人して独立している(60代男性/血液透析科)
まあできている
- 一般の医師に比較して、やや家庭が多い気もするが、キャリアも現状は維持されている(30代男性/消化器科)
- 職場環境が良く、仕事内容を夫婦で調整できること。保育園以外に、院内保育園に夜間でも休日でも子供を預けられること(30代男性/産婦人科)
- 幼い子供がいるが、外来、病棟両方やれていて満足している。病棟が主治医制ではなくチーム制なことも大きい(30代女性/リウマチ科)
どちらとも言えない
- 家事育児に時間がとられるが仕事に影響しているかは微妙(40代男性/精神科)
- 仕事は理想通りにいっていない(50代女性/眼科)
- 時間ができたので、もう少し手伝ってあげても良いと思う(60代男性/麻酔科)
あまりできていない
- 子どもが寝た後に自己学習をしなければいけないが、その時間には正直疲労困憊になっている(30代男性/脳神経外科)
- 家事に関わるのは難しい。職場の理解がない(50代男性/精神科)
- 平日は家にいる時間が少ない。休日も仕事をすることが多い(60代男性/科目未回答)
できていない
- 忙しくて子育てにあまり関われていない(30代男性/脳神経内科)
- 圧倒的に勤務時間や自宅での勉強時間が長い(40代女性/小児科)
- 家事育児が忙しすぎる(40代男性/脳神経内科)
そもそも両立する気はない
- もう流し運転状況(60代男性/整形外科)
- 古典的夫婦を理想と考えている。自分は医療に専念したい(60代男性/耳鼻咽喉科)
両立の第一の壁は、幼い子どもの子育て
続いて家庭(家事・育児)との両立が難しく、転職を考えたことがあるかどうかについては、「ある」人が22.6%で、「ない」人が49.8%でした。
キャリアと家庭(家事・育児)の両立で悩み、転職を考えたことがある人の多くは、子どもがいる方でした。転職を考えた理由には、以下のような回答が得られました。
- 20代、30代の頃は子どもが小さいこともあり、体力的にきつい割には思うように働けず、キャリア形成の上で悩むことが多かったが、40代になると諦めがつくようになった(40代女性/麻酔科)
- 病棟担当をしていたころは、土日出勤や夜間の呼び出しが不安でたまらなかったから(40代女性/呼吸器内科)
- 大学勤務時代に妻に家事と子育ての負担をかけてしまい、このままでは家庭が崩壊すると思い医局を抜けた(50代男性/内科)
- 子供が小さいうちは両立ができず、まず自分が介護施設に移ったが、結局夫が専業主夫になった(50代女性/内科)
- 子どもが小学校に上がったとき、親が教育に携わるべきだと考えていたので、非常勤を希望した。その時の上司に引き留められ、教育をアウトソーシングして、結果的には良かったと思っている(60代女性/産婦人科)
子どもが小さい頃は育児に手がかかる一方、医師としてもしっかり働くことが求められる年次のため、両立に悩む人が多いようです。また、子どものお迎えのタイミングで患者が急変といったハプニングへの対応、時間が取れず当直中に試験を勉強する、子どもの行事に参加できないもどかしさを抱えたまま仕事に向かうなど、日々の「忙しさ」や「時間のなさ」を嘆く医師も多かったので、キャリアと家庭を両立する意味でも、医師の働き方改革が求められています。
家事育児の影響、男女や世代別で意識の差
最後に、家事・育児が昇進や評価など、キャリアに影響があると感じることはあるかを尋ねたところ、「あると思う」が若干高い割合を占めつつも、ほぼ均等に意見が分かれる結果となりました。
男女で比較すると、男性は「わからない」を除いてほぼ均等に意見が割れるのに対し、女性は「キャリアへの影響があると思う」が75.0%を占めました。男性よりも女性の方が時短勤務等、家庭優先の働き方をする人が多いので、当事者として実感しやすいのかもしれません。
また世代別で見てみると、30代は「あると思う」と答える割合が多く、中でも「ややあると思う」が46.0%で突出しています。30代は医師としてようやく一人前になった頃、出産や子どもに手のかかる時期が重なるため、影響を懸念する人が多いのかもしれません。
一方、70代は「ないと思う」が45.0%で抜き出ています。ちょうど団塊の世代にあたり、「家庭を顧みず仕事」という価値観の色濃い時代を過ごしたことが影響しているのではないでしょうか。
改めて、それぞれの回答理由を一部抜粋してご紹介します。
とてもあると思う
- 定時上がりをして当直をしないことで、評価は落ちている。悪く言われることもある(30代女性/リウマチ科)
- 夜のカンファに出られませんし、緊急対応もできない。夕方帰ってしまうのに、おいしいとこ取りはやはりできません(30代女性/小児科)
- 仕事に時間が割けないので、論文なども書く時間が限られる(40代男性/脳神経内科)
ややあると思う
- 出身医局には助教以上の女性既婚者がフルタイムで働いていない(50代女性/放射線科)
- 少しずつ改善してきているかもしれないが、家庭のことよりも仕事を優先しているアピールをしている人の方が、評価が高いと感じる(30代男性/脳神経外科)
- 医局員に順番にあった留学の誘いが自分にはなかった。上司が子育て中なのを配慮してくれたのだと思うが、自分は声がかかれば行くつもりで準備していたのに残念だった(60代女性/産婦人科)
どちらとも言えない
- 実際には仕事で時間の制約は大きいと思う(60代男性/呼吸器内科)
- 自分で決められることは限られています。周りとのバランスが大事(60代男性/糖尿病科)
- 人それぞれだと思います。個人的には早めに医局を離れて良かったと思っています(60代男性/リハビリテーション科)
あまりないと思う
- 職場は家庭の事情での早退、欠勤等に理解がある(40代男性/精神科)
- 家事がこなせる者は仕事もできるから(50代性別未回答/腎臓内科)
ないと思う
- 昇進を希望していないから(40代男性/整形外科)
- 家事・育児のことは、教授選では聞かれなかった(40代男性/科目未回答)
- それらを考える環境や立場にない(70代以上男性/消化器外科)
キャリアと家庭の両立は第一に個人・各家庭での努力が求められるものの、それと同時に勤務先の理解を得られるか、状況によって仕事量や勤務時間の相談ができるかも両立の実現性に影響を及ぼしているのではないでしょうか。
ライフスタイルが多様化している今、本記事が自身の働き方と家庭での過ごし方を振り返るとともに、上司・同僚・後輩の生活面に意識を向けるきっかけになれば幸いです。
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