2018年度の本格開始を間近に控えた新専門医制度。当事者となる医学生は、どのように動向をとらえているのでしょうか。全日本医学生自治会連合(医学連)が70大学4129人に対して行った「目指す医師・医学者像についての意識調査」をもとに、医学生のキャリア意識を探る本シリーズ。最終回は、新専門医制度に対する医学生の考えを紹介します(グラフは医学連提供データをもとにエムスリーキャリア編集部にて再編集)。
「新専門医制度に学生の声を」44.8%
2018年度から本格開始する見通しの新専門医制度。その議論に学生の声を反映させることが「必要だと思う」と答えた医学生の割合は44.8%という結果になっています。
「どちらでもない」と答えた医学生の回答も4割程度に上った今回のアンケート。ただ、自由記述欄では「意見の反映よりもそれに関する知識がほしい」、「新制度がそもそも二転三転しているような印象でよく分からないから意見の出しようがない」、「学生という立場からでは見えている範囲が狭すぎて有用な意見を発することは難しいと思います」などの意見も。前提として、医学生に対する新専門医制度の説明が十分でなく、意見を発することも難しくなってしまっている現状があると医学連では指摘しています。
「専門医制度は、自由な人生設計を保証するような制度に」
このほか、新専門医制度において「どのような点に関して、学生のどのような意見を反映してほしいか」を聞いた項目での回答内容をまとめると以下の結果に。幅広いニーズを反映するような意見が寄せられていることから、医学連では「新専門医制度が医学生にとって多様性と選択肢を狭めるものではなく、自由な研修、自由な人生設計を保障するものであって欲しいという想いが読み取れる」としています。
【自由記述抜粋】
◆ワーク・ライフ・バランスを考えつつ専門医を取りたい
・専門医取得にかかる時間が長い。(2年生、女性)
・大学病院に残らないと専門医がとれないと、ライフワークバランスや専門医の偏在等に影響する(3年生、男性)
・結婚・妊娠・出産・育児などのプライベートと医師としてのキャリアパスの両立に関しての意見は反映してほしい(3年生、女性)
◆複数の専門を標榜できるようにしてほしい
・低学年に説明の機会を与えるべきである。(複数の学生が回答)
・ダブルボード取得の可否や女性医師のキャリア形成、地域枠学生の働く場所の選択の自由など学生がすごく不安に思っている点はあると思うのでそこを安心できるような制度にしてほしい。(3年生、女性)
◆女性医師の働き方について
・専門医を取るためにどのくらいの時間、現場が求められているのか、特に女性医師の場合、専門医取得後、キャリアアップまでの年数、経験症例がどのように変わり、親の介護、子育て、家事などがある中でどう両立していけるのかについて、専門医制度をつくる例が考える具体的な人生設計プランを提示してみてほしい。(5年生、女性)
・結婚・出産などのライフイベントがある人など中途半端な立ち位置になってしまうのではないかという不安があります(6年生、女性)
・専門医を取ることができるのが遅れることに関して女性として働きにくくなることを考慮してほしい(6年生女性)
・やはり女性である身として、子育ても両立出来るようなしっかりとした制度にしてほしいと思う(3年生、女性)
◆研修先によって取得できる科に制限が生まれないこと
・都市部以外の地域で研修を受けても有利不利が生まれないこと。(複数の学生が回答)
・自分にとっては都心の方が圧倒的に有利であり、働き方の自由を謳う現状と逆行する制度に見える。(3年生 女性)
・専門医を取得できる場所の多様化を求めます。(6年生 男性)
・大学での入局以外の選択肢を用意できないか検討するべき。今ある奨学金の制度とかみ合わなさすぎるものが多い(5年生、男性)
◆臨床医以外のキャリア形成も認めてほしい
・社会医学などの分野も考慮すべきと思う。臨床偏重である(1年生、男性)
・学位取得はどうなるのか専門医取得との兼ね合いはできるのか?(4年生、女性)
・留学など色んな選択枠が人生で生まれるような制度だとうれしい(4年生、女性)
「医学教育にキャリア形成考える機会を」
医学生のキャリア観を明らかにし、大学教育や新専門医制度の議論へのフィードバックを行うことを目的とした今回の意識調査。医学連では考察を以下のようにまとめています(原文引用)。
「医学教育モデル・コア・カリキュラム 平成28年度改訂版」によると、「多様なニーズに対応できる医師の養成」が教育目標として掲げられています。これは、これから起こる多様な求めや変化に医師が応えてゆくという受動的な側面だけでなく、医師として多様なキャリアパスが形成でき、多様なチャンスがあるということも意味しています。したがって、医学部における医学生のキャリア形成は、社会からのニーズの一つであると解釈することができます。
しかし、医師像を考える機会については十分に保障されているとは言い難い現状があることが、本アンケート結果から明らかになりました。そしてその要因としては、そもそも大学が機会を設けていないことや、相談相手や参考材料が少ないこと、試験が多忙で時間的・精神的余裕がないこと、医師像を考える必要性を感じられないこと、さらには医師像を考える主体性を身につけられていないことなどが挙げられ、非常に複雑かつ多様であることが分かりました。
そのような状況に加えて、新専門医制度についても、多くの医学生がまだ十分に理解できていないことがわかりました。その原因としては、まず制度そのものが学生へ十分周知されていないことが挙げられます。またその一方で、将来制度を利用する主体者になるはずの医学生が、新専門医制度についてそもそも知識や関心が薄いことも挙げられます。このことは、最後までプログラムを履行する医師が少なくなる可能性を示唆しています。専門医の取得が「義務」から「推奨」へ変わったなか、このような事態では専門医の細分化が進まなくなる恐れがあり、国民や患者が十分に満足のいく医療を受けられなくなる可能性すらあると言えるでしょう。
医学生は今の医学教育に一定の満足度は示してはいるものの、十分にキャリア形成を考える機会を得られている学生は多くありません。そのため、各大学で大学側と学生側が協働して学生の声を吸い上げて、医師像を考える機会の提供や、相談できる体制の整備、多様な働き方の提示などにより、学生のキャリア形成への動機付けを推進してゆく必要があります。そして、そのことが医学生のみならず国民・患者さんの利益にもつながってゆくのではないでしょうか。
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