国内に常在しない感染症の病原体が海外から持ち込まれることを阻止するために、検疫所で働いている医師がいます。那覇検疫所で所長を務める垣本和宏氏に、検疫所の医師のキャリアパスや働き方、検疫所から見た日本の医療の課題について聞きました。(取材日:2019年11月14日)
※前編はこちら:医師が選んだ職場は、エキサイティングな“検疫所”
医師の複数人いる大空港で経験を積む
――検疫所での医師の働き方やキャリアパスを教えてください。
勤務先は、検疫所がある全国の主要な空港か港に設置されている検疫所になります。入国管理局、税関と並んで、海外から日本に人や物が入ってくるときの3つのゲートのうちの一つです。
2018年の訪日外国人客数は3000万人以上。検疫所では、それに日本への帰国者を含むすべての人に対して検疫を行います。航空機や船舶から事前に送られて来る書類を審査の上、到着時にはサーモグラフィーなどで発熱を確認し、発熱や咳などの症状がある人や体調に不安のある人がいたら、重大な感染症に感染していないか疑い、必要に応じ、隔離や停留などの措置を行います。
最初は、業務に慣れるために、医師が複数人いる羽田空港や成田国際空港、関西国際空港などの大きな空港に勤務するケースが多いです。経験を積み、管理職や責任者になっていくことも期待されています。所長になると、輸入食品監視業務にも関わるようになり、総務的な業務も増えます。
責任ある仕事ながら、ワークライフバランスも担保
――検疫の仕事とは、どういったものなのでしょうか。
日本になかった感染症を水際で防ぐ責任ある仕事です、と新入職員にはお伝えしています。
今の時代、24時間あれば、感染症は世界を回ることができます。世界の人口が増える中、アウトブレイクが頻発していますし、動物由来の感染症が増えるなど、感染症が多様化しています。さらに日本の状況を見ると、グローバル化によって、訪日外国人が急増しています。検疫の重要性はどんどん高まっているのです。
――病院勤務と比べて、働き方の大きな違いは何ですか。
ワークライフバランスがとりやすいことは魅力の一つだと思います。感染症の拡大スピードが速まったり、多様化したりといった状況ではありますが、特に非管理職の勤務はシフト制です。仕事とプライベートのメリハリがついた生活になると思います。オンの時間は、医師としても国家公務員としても責任ある仕事ができますし、オフの時間は自由に過ごせます。休みも取得しやすい環境です。
また、専門医資格や医療技術を維持するため、医療機関等において一定の臨床業務を有報償で兼業することも最近になって許されるようになりました。一定の条件を満たす必要はありますが、いずれ臨床に復帰する道も残しておきたいという方でも、検疫業務にチャレンジしやすくなっていると思います。
――世界の感染症の動向が重要になると思いますが、どのように情報を収集していますか。
日ごろから、WHOをはじめ、さまざまなウェブサイトで海外の感染症の動向について情報収集をしています。業務の一つに電話健康相談があり、これから海外に行く予定の人が、感染症の情報をもとに「行っても大丈夫か」「どんなことに気を付ければいいか」などを相談してこられるのですが、「この電話で初めて知った」ということがあってはなりません。また、都市や空港、港の名前から、国や地域が浮かび、どんな感染症のリスクが高いのかすぐにわからなければならないので、感染症の情報は地理と合わせて、インプットしています。
早め早めに情報を取りに行く姿勢が重要ですね。また、それらの感染症の動向の情報は医師だけでなく、検疫所全体で知っておく必要がありますので、得た情報は、所内で共有したり、研修を実施したりしています。
世界中を経由する感染症と、急増する訪日外国人
――いま国内への侵入を警戒している感染症は何ですか。
アフリカのコンゴ民主共和国でエボラ出血熱が発生しているので、アフリカから来られている方を把握するようにしています。アフリカから日本への直行便はないので、経由地があると検疫所ではアフリカから来たことがわからないことがあります。その場合は、本人の申告に頼るしかないので、該当地域から来た人や、感染の可能性があると思う人は、入国時に検疫で申し出るように飛行機の中でアナウンスをお願いしています。
ほかには中国や東南アジアの国での鳥インフルエンザ、中東でのMERS(中東呼吸器症候群)の流行が心配ですね。
――心配は尽きないですね。検疫所長という立場から見る、日本の医療の課題は何ですか。
検疫を含む感染症医療体制の整備が、喫緊の課題です。国の目標どおりに訪日外国人が増えれば、旅行者だけでも、2020年には4000万人になります。せっかく訪れていただくからには、何事もなく日本で過ごしていただきたい。なによりも、国民の方々の健康を守りたい。
そのためには、検疫官という仕事に興味を持っていただける方を増やしていきたいですね。それから、検疫所と医療機関の協力も不可欠ですから、これからも連携を深めていきたいです。
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