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医師で果物農家!「半農半医」で得た発想―医師と2足のわらじvol.12(後編)

2019年2月28日

耳鼻咽喉科の開業医として忙しい日々を過ごされていた豊田先生。心身ともに体調を崩した時にたどり着いたのは、医師として栄養の大切さについて伝えること、農家として口に入れても安心な食材を提供することでした。先生が考える「病気を未然に防ぐ生き方」からは新たな試みも生まれているようです。(取材日:2019年1月7日) (前編はこちら

「半農半医」のワークスタイルとは

――開業医を辞められてしばらく経ちますが、現在のワークスタイルを教えてください。

月・火・金は朝畑に行ってから出勤し、終日医師として仕事をしています。水・木は夕方から勤務し、それ以外の時間は農業にあてていますね。土日も、ほとんど一日中農家の仕事があります。スケジュールだけみると激務のように感じますが、医師と農家、それぞれ自分のペースで楽しくやっていますよ。医師としては、より患者さんの生活に即した形で一人ひとりに寄り添えるよう、訪問診療などに目を向けるようになりました。現在は耳鼻科に加え、訪問診療や精神科でも非常勤で働いています。疾患を診るというより、全人的に患者さんと関わるため、耳鼻科医だけでは知ることのなかった社会の現状などを見つめる機会にもなっていますね。

特に訪問診療の現場に行くと感じることなのですが、ご高齢の患者さんの中には、「若い頃の元気な身体に戻りたい」と思う方も少なくありません。そういう方ほどお薬や処置を求める傾向があります。しかし、どんなに薬を服用したところで、若い頃のような体力が戻るわけじゃないんですよね。むしろ、過度な多剤併用は有害事象のリスクを高め、本来体に備わっているはずの治ろうとする力を阻害することにもつながりかねません。“老い”を受け入れることで、薬の量も減り、結果的に年相応の健康状態を得ることができるのではと感じることはあります。農業も同じで、農薬や肥料を使えばいい作物が育つわけではない。どちらもバランスが大切だと思っています。

自然栽培を始めて見えた、医療のゴール

――先生はなるべく農薬や肥料を使わない自然栽培を実践されているんですよね。

祖父母の代では、農協から農薬や決まった時期に肥料が送られてくるので、うちに割り当てられた農薬や肥料をそのまま撒いていました。それがルーティンになっていたわけですが、僕はこれを減らしたらどうなるんだろう、とずっと思っていました。消費者にとって、残留農薬はなるべく少ないほうがいいことは言うまでもありません。また、いくら防護服を着ているとはいえ農薬散布時には経皮吸収や気道吸収が避けられないので、農家である私たち自身の健康にとっても使わないに越したことはないんです。たとえば桃の場合、収穫までに10~15回も農薬をかけますから、これを減らすことができれば体によいだけでなく、農家の金銭的な負担も減ります。いいことづくめなので、とにかくやってみようと思い、始めました。

――実際に農薬や肥料を使わない農業をされてみて、医療との共通点を感じることがあるそうですね。

近年、アレルギーや副鼻腔炎、中耳炎などを何度も繰り返す患者さんが増えていると感じます。個人的には、それって抗生剤の使い過ぎで、耐性菌が出てきてしまっているからではないか、もしくは人の免疫システムがおかしくなっているのではないかと思っています。農業も同じで、農薬を使用しすぎると耐性ができて、効かなくなってしまうんです。医療も農業も、必要な時はもちろん薬を使いますが、なるべく自然な力を活かすのが望ましいのではないかと思うようになりました。

生涯医師であり続ける必要はあるのか

――現在は半医半農だけではなく、食育にも力を入れていらっしゃるそうですね。

私は医師になった当時、「治療をして病気の人を減らしたい」と願っていたのですが、それはなかなか難しいとわかって一度挫折しました。しかし、農業に携わったことで「それなら病気になる人を減らせばいいんだ」と考えが変わった。そこで、健康な体づくりや自然栽培の担い手を増やすために、有志を募って「自然の郷 きのくに」を立ち上げました。主な活動は勉強会や「自然農業塾」での取り組みです。「自然農業塾」とは昨年から始めた活動で、一般の方に一年を通して実際に農業体験をしてもらい、無農薬野菜の普及につなげようというもの。食育という観点では、市民講座や健康セミナーなどを定期的に開催して、医師と農家、2つの立場から講演活動を行っています。

――これからの先生の活動についてお聞かせください。

実は2月から自然予防医学推進協会というものを立ち上げまして、食を通しての予防医学、栄養についての普及活動を行う予定です。血液データを見て、必要な栄養のアドバイスなどができるのは医師ならではの活動じゃないかな。例えば、妊活をしている人や、鉄欠乏性貧血で悩んでいる女性も多いと思うんですけど、そうした方に食生活のアドバイスなどをするとか。病気になる人を少しでも減らすことに力を注ぎたいです。

――最後に、医師以外にもやりたいことがある、という読者へアドバイスをお願いします。

人生は一度きり!やりたいこと、興味があることにはチャレンジしてみて、上手くいかなかった時は軌道修正すればいいのではないでしょうか。医師になったからといって、生涯医師であり続ける必要はないんだと思います。別の仕事をしてみることでまた違った視点が得られると考えます。私は今のスタイルが気に入っているので、同じように自分に合った環境や働き方を見つけられる医師が増えるといいなと思います。

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