在宅医療に必要なスキルは
―在宅医に必要な素養を一言で表すとすると、どのようになりますか。
“患者の生活に根差した視点で、総合的に診ることができるということ”だと思います。たとえば、ひざが悪い患者の住まいが団地の5階にあったとして、その団地がエレベーター付きなのか・そうでないのかによって、治療に対する切実さが変わる分、必要なアプローチも当然違ってきます。現在は介護保険制度のもとで、医師は意見書を書かないといけませんから、このように生活に配慮した視点を持つことは必要不可欠です。病院でずっと働いていた医師が、そうした視点へと転換するのは、意欲があっても難しいかもしれません。最近では日本医師会でも、こうした視点を身につけるための研修も始まっていますが、実際に在宅の現場を見て、実地訓練を行うことが大切だと思います。
―在宅医療を通じて新田院長が実現させたいものがあるとすれば、どんなことでしょうか。
“患者が望む生活を支援すること”でしかないですね。これを妨げる要因は、病気はもちろん、家族も含めた生活環境、保険制度など、とてもたくさんありますから。どんな工夫をすれば、限りある資源で「その人が望む生活」を実現できるのか。自分が生きていたいと思う場所で生き続けることが、最大限叶えたいことであり、一番の基本でもあると思っています。そのために、予測される病態に対しては先手を打って、きちんと治療、生活スタイルを組み立てる。これが、在宅医の役割ではないでしょうか。
―そうした役割を果たす上では、患者自身やその家族への対応が非常に大事だと思いますが、何か気をつけていることはありますか。
施設ではなく、ご自宅で在宅医療を受けるのであれば、ある程度の危険を覚悟してもらうことが必要です。完璧さ・安全性を追求するなら、自宅ほど不安定なものはありません。たとえば、認知症が進んでも、それを見守る勇気や心構えを持ってもらう。全て管理できるわけではないということを、まずは分かってもらうのが、在宅医療の第一歩ではないでしょうか。
ただ、たとえ危険が伴うとしても、ご自宅で在宅医療を受けたいのだという患者さんは依然として多い。前述の通り、在宅医療には、病院の医療とは違う価値があるからです。患者自身が住み慣れた我が家で、ありのままの暮らしの延長線上で最後まで生きたいと望むのであれば、最大限のサポートをしたいと思っています。
在宅医療は地域を診るための選択肢の一つにすぎない
―在宅医療を取り巻く環境や制度は、今後も変わっていくものと思います。今後、在宅医療を展開していく上での、お考えはありますか。
特に当院のように、外来診療を行い、地域住民のかかりつけ医機能を持つ診療所にとって、在宅医療は地域を診るための一つの選択肢です。今は外来通院可能な60歳の人が、20年後は80歳になる。それでもし、通院できなくなっているのなら、自然な選択として在宅医療という選択肢を提供できれば、それでよいのではないでしょうか。
どんな場所であれ医療には平等にアクセスできるべきで、在宅医療はその上での一形態にすぎません。かかりつけ医として、地域の患者さんのニーズの中に在宅医療があるのであれば、それを展開する。しかし、もし別のニーズがあるのであれば、それを模索する。そうした視点を持って、今後も地域の医療に携わっていくことが大事なのだと思います。
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