地域の認知症ケア、在宅医療を取り巻く環境について数々のメディアで積極的に情報発信していることで知られるのが、全国在宅療養支援診療所連絡会の会長で、医療法人社団つくし会・新田クリニック(東京都国立市)の新田國夫院長です。
在宅医としてのキャリアを選ぶ上でもカギとなる、在宅医療を取り巻く全体的な動向や、昨今の診療報酬改定への考え、これから在宅医療を展開していく上での考えについて、新田院長のこれまでを振り返りながら伺いました。
「在宅医療で認知症の高齢患者にどう対応する?」-開業して見えた課題
―1990年の開業時から、新田院長が訪問診療を始めた背景には、何があったのでしょうか。
当時は、社会的入院の是正のために「病院から在宅へ」という流れが起こり始めていた初期段階でした。わたしはもともと外科医として、末期がん患者の治療に当たっていましたが、彼らを地域で支えられるように、外来と並行して訪問診療を手掛けはじめました。
当時、1990年代前半の在宅医療には、「病院と同じような医療を患者の自宅で提供したい」という目標があったように思います。
しかし、在宅医療を実践するうちに、高齢者が自宅で抱える問題が徐々に見えてくるようになったことで、「在宅医療と、病院の医療の本質は異なるのではないか」と考えるようになりました。その大きな契機として、在宅の認知症患者が抱える問題が顕在化したことが挙げられます。
認知症の根治療法は現在も確立していませんし、さらに当時は介護保険制度もなく、介護サービスも充実していない時代です。そうした中、認知症患者をご家族が家に閉じ込めてしまい、そうした生活環境が原因となって、周辺症状が悪化してしまう事態も、全国的な動向として徐々に見えはじめていました。同時期には、北欧型の医療や介護にも注目が集まりはじめ、「日本型の高齢者ケアをどう構築するか」は、大きなテーマとなっていました。
認知症患者との関わりで気づいた 在宅医療ならではのアプローチ
当院でも、それまでの医療にはなかったようなアプローチによる、高齢者ケアのあり方が模索されました。その一例が1997年に開設した“つくしの家”という、認知症を抱えた高齢者8人が生活できる現在のデイサービスです。認知症高齢者を自宅に閉じ込めるのではなく、“つくしの家”に来て思い思いに過ごしてもらう。料理をしたり、のんびりしたり、自分のペースで「ごく普通の生活」を過ごせる環境を目指しました。
すると、“つくしの家”に通っていた患者の中には、薬を使わなくても済むようになった人が出てきた。「認知症のケアとはこういうものなのか」と、純粋な驚きがありました。当時は体系的な理論もなく、試行錯誤の中で、何が良いのかを探っている状況でした。もちろん、“つくしの家”のアプローチがすべての患者に奏功するとは言えません。しかし、少なくとも、従来の病院のような治療とは違う、患者の生活背景を踏まえたアプローチを取ることで、患者にとって幸せな結果が生み出せることもあるのだと分かった。これは大きな気づきでした。
- 認知症ケアで気づいた在宅医療と病院医療の違い―新田國夫氏・vol.1【本記事】
- 在宅医療 診療報酬改定の動きをどう見るか―新田國夫氏・vol.2
- これから在宅医療に携わる医師に求められるもの―新田國夫氏・vol.3
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