診療報酬改定、介護保険制度の開始… 在宅医療の制度化の一方で課題も
―1990年代、新田クリニックのような地域の医療機関で、在宅の高齢患者を支えるための試行錯誤が行われた末に、2000年には介護保険制度が施行され、その後の診療報酬改定でも、在宅医療の担い手として在宅療養支援診療所(在支診)が創設されるなど、環境は大きく変わったかと思います。新田院長は、全国在宅療養支援診療所連絡会の会長として、在支診の運営者のまとめ役も務めていらっしゃいますが、在支診が在宅医療を展開する上で課題となっていることはありますか。
現在、在支診は日本に1万3012か所あると言われています(2012年1月現在)。ただ、生活に根差した視点で医療を提供する在宅医療は、質の担保、評価が非常に難しい。そうした意味で、在支診同士の情報交流を促進させる連絡会が果たす役割は大きいと思っています。
ただ、地域の診療所で、24時間対応できる体制を整えるという在支診の要件を整えること自体、多くの診療所にとってはまだまだ難しいようです。実運営となると、現実的な話としてやはりここが一番苦労するところではないかと思います。
―2012年の診療報酬改定では、複数の医療機関の連携によって一定の基準を満たせば、機能強化型在支診として認められるようになりました。診療所同士の連携によって負担を軽減しつつ24時間対応を実現しようという方向が示されたかと思いますが、課題は残っていますか。
診療所同士の連携体制を構築しようという方向性自体は良いと思います。ただ、十分に連携を取れるようになるまでには、まだまだ時間が必要だと思います。
―どういうことでしょうか。
現状では、それぞれの診療所が受け持っている在宅患者数にバラつきがあります。在宅患者が数人というところもあれば、当院のように50~60人というところもある。そのため、診療所ごとの医療提供体制やスタッフ数も、一様ではありません。こうした状況で、数人の在宅患者の対応で手いっぱいな診療所に、数十人規模の患者を受け持つ診療所の緊急時の看取りへの応援を求めるのは酷です。それぞれの診療所同士が同じくらいの規模でないと、お互いにメリットのある連携は取りづらい。2014年度の診療報酬改定では、連携を取る診療所のそれぞれに一定の基準(年間の緊急往診実績4件以上、看取り実績2件以上)が求められるようになるなど、変化もあるようですが、診療所同士の連携によって在宅医療が展開される文化が全国に根付くには、もう少し時間が必要だと思います。
2014年度診療報酬改定をどう見る?-施設向け訪問診療に引き下げも
―2014年度の診療報酬改定でも、「在宅医療への注力」が掲げられた一方で、「同一建物」「同一日」の患者への在宅時医学総合管理料を約4分の1に大幅に減額することが打ち出されたことが話題になりました。この引き下げの背景には、高齢者集合住宅などの運営業者からの紹介で、複数患者の訪問診療を一度に行い、報酬の一定額をキャッシュバックする“患者紹介ビジネス”の影響も大きいとも言われていますが、こうした動きをどのように見ていらっしゃいますか。
施設で暮らす患者をどのように診ていくかは重要な問題だと思いますが、今回の報酬引き下げについては、これまでの診療報酬改定を振り返ると、ある意味“よくある光景の一つ”だととらえています。
限られた財源で支えられている医療の領域で、規模を拡大するために過度なビジネスモデル化がなされると、いずれメスが入る。医療業界全体の流れとして、機能分化が推し進められ、診療報酬の「適正化」が行われている状況において、在宅医療も決して聖域ではないのだということが、示されただけのように思いました。
もちろん、多くの医師は、地道に在宅医療に取り組んでいます。良いか悪いかは別にして、一人開業体制の中で、真摯に患者を診ている医師も多い。しかし体力的にも経営的にも、それでは持続的ではないので、より効率的な運営体制のビジネスモデルを考えはじめる。ここまでは良いと思いますが、一方で懸念も生じます。人を雇ったり、ハードを充実させたりすると、より大きな需要を欲してしまうんです。
これまで病院でも、人員を確保したり、医療機器などのハードをリースや借金して揃えたりしたら、診療報酬の点数でそれを賄おうと、過剰医療に陥ってしまうケースが、残念ながらありました。経営者の道徳的・倫理的配慮や、バランス感覚が欠如した状態で過剰な大規模展開を目指すと、やがて失敗してしまうのではないでしょうか。
- 認知症ケアで気づいた在宅医療と病院医療の違い―新田國夫氏・vol.1
- 在宅医療 診療報酬改定の動きをどう見るか―新田國夫氏・vol.2【本記事】
- これから在宅医療に携わる医師に求められるもの―新田國夫氏・vol.3
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