
健康経営度調査で上位10%にランクインという、大規模医療法人としては初の快挙を達成した医誠会。谷幸治理事長は、「40年かけ、新たな病院組織のあり方を模索してきた」と語ります。医誠会を軸に展開するホロニクスグループは、関西を中心に62施設を運営しています。同グループの代表も務める谷理事長が考える、これからの時代を生きのびることのできる病院組織とは?また、医師のキャリアに新たな選択肢を与える、経営専門医育成プログラムとは、いったいどのようなものなのでしょうか。(取材日:2020年2月21日)
※前編はこちら
[PR] 医療法人 医誠会
・全国病院「改革実績」ランキング ※週刊ダイアモンド、2016年
医誠会病院:全国22位、大阪地区1位
・医療法人 経営安定力ランキング ※週刊東洋経済、2019年
医療法人医誠会:全国14位
・健康経営優良法人 ホワイト500認定 ※経済産業省、2020年
医療法人医誠会を含むホロニクスグループ:100位以内/2328社
自己犠牲的精神だけで、患者さんは支えられない。
——医療制度は崩壊寸前(詳細は前編)というお話でしたが、来る危機にどのように備えたらよいのでしょうか。
病院が変化に対応できないのは、疲弊の表出でもあります。医師をはじめ、医療スタッフは多忙であり、変化を受け入れられるだけの余白がない。患者さんのためならハードワークに耐えるのが当たり前、という使命感によるところも大きいのでしょう。しかし、精神論や自己犠牲的精神だけでは、持続可能な医療・介護システムをつくることはできません。現場の負担を軽減し、変化に柔軟に対応できる病院組織とは──?私は、この問いの答えを見つけるべく、新たな組織マネジメントについてもずっと模索してきました。
病院が生き残るには働きやすさが重要
——具体的に、どのような取り組みがありますか。
今後の病院経営では、データ管理の徹底と活用がより重要になっていくでしょう。経験・勘といった主観的判断ではなく、データに基づき客観的な意思決定を行えるかどうかが問われます。このため、当グループではデータサイエンティストを活用し、職員のスキルや経験などを全てデータベース化して一元管理し、人員配置などに活かしています。

また、患者さんへの対応にもデータを活用しています。例えば、当グループでは処置を行う看護師とは別にコーディネートナースがおり、患者さんのデータをもとに医療相談や生活指導、健康管理の支援などを行っています。これは患者さんと病院の架け橋となる存在をつくるとともに、医師の負担軽減を図るためです。このように、各職員が本来業務に集中できる環境を整えることで、患者満足度や生産性の向上を図っています。
同様の狙いから、タスクフォースを充実させて、発生時点解決・専門職解決を目指しています。たとえば、医師に対しては医師対策室というチームを設け、10数名のメンバーがいます。問題発生時には当事者から報告を受け、このチームが医師の諸問題の解決にあたります。看護師、介護士も同様に、それぞれ専従のチームがあり、現場で悩まずに済むようにしています。 また、コンプライアンスの充実や現場のトラブル解決のため、弁護士・警察OBを2 名ずつ配置しています。 このように、職能・職種横断の縦・横・斜のつながりを意識した人材マネジメントの成果もあり、2019年には経済産業省が実施している「健康経営度調査」で約2300社中、100位に入ることができました。同調査の上位10%に入ったのは大規模医療法人としては初のことです。
医師の新たなキャリアパス、経営専門医とは
——先進的な取り組みばかりですが、こうした経営改革は医療の専門である医師にとって非常にハードルが高いように感じます。
私自身、ここまでの道のりは困難の連続でした。多くの失敗や挫折を味わった今、強く感じるのは、「病院経営には実践が不可欠」ということです。脳は経験の範囲内でしか物事を理解できない装置です。どんなに本を読み、MBAを取得したところで、実践を伴わなければ病院経営はできません。とはいえ、変化のスピードが加速している現在、私のように40年かけ学ぶような猶予はありません。そこで、3年間で必要な経験・知識を凝縮して学ぶことのできる「経営専門医育成プログラム」を考案しました。
このプラグラムの最大の特長は、理論と実践の2本立てという点です。業務提携をした関西学院大学大学院にて、医療経営を体系的に学びMBA取得を目指しながら、当グループの各事業部・施設にて研修を受け、実際に課題解決にあたっていただきます。病院事業の財務、経理、人事、総務、経営企画、医師対策、看護師対策、理事長室といった主要な管理部門はもちろん、当グループの急性期~慢性期病院、クリニック、介護施設、在宅支援領域やヘルスケア商業施設の運営についても研修予定です。初期研修を終え「臨床よりもマネジメントに興味が湧いてきた」という先生が、各診療科の専攻医研修のかわりに本プログラムを受け、経営専門医(※)としてのキャリアを目指すようなイメージです。 ※ホロニクスグループによる独自資格


——修了後はどのようなキャリアパスを想定されていますか。
本部で経営に携わる、開業する、当グループが所有する施設で責任者としてマネジメントに携わる、教育機関で研究に励むなど、ご本人の意向次第で様々な可能性が考えられると思います。幅広い知識を持ち、医療の質と経営の質の両立を志す“スーパーゼネラリスト”として、共に未来の医療を支えていく仲間になっていただきたいですね。
——経営専門医に向いている医師とは、どのような医師でしょうか。
挫折から学べるかどうか、が重要だと思います。私は自分自身の事を「志を持つ落ちこぼれ」と表現しています。挫折経験をネガティブにしか捉えられない人は成長できません。どんなに失敗しても、志があれば人は挫折をプラスに転じることができます。私の場合は、それが「供給者の都合でつくりあげた病院の仕組みを、受給者、すなわち患者さんの視点で再構築したい」という想いでした。患者第一主義に基づく四者満足(患者・職員・病院・社会)の実現です。医療業界は閉鎖性が強く、私の考えや取組みを理解してもらえないことも少なくありませんでした。だからこそ、一緒に日本の医療課題に取り組んでくれる先生に対して、適切なチャンスとサポートを提供していきたいと考えています。
開業を希望する医師のみなさんへ

もし先生が、将来は独立・開業したい、病院経営を担いたいといったお考えをお持ちでしたら、エムスリーキャリアにご相談ください。
●センター新設など、戦略的に事業拡大をしている病院
●経営を学びたい医師を積極的に採用しているクリニック
など、診療技術だけでなく経営やマネジメント能力が身につけられる医療機関をご紹介いたします。