外資を中心に、製薬企業内に医師(メディカルドクター=MD)の雇用が進んだ1990年代初頭。それから20年あまりが過ぎ、製薬企業におけるMDの役割も変遷を遂げてきたようです。日本製薬医学会の今村恭子理事長に、製薬企業で働くMDの動向について伺いました。
製薬企業でMDは「アドバイザー」から「チームメンバー」へ
―日本の製薬企業において、MDの位置づけは時代とともにどう変わっているのでしょうか。
20年前は、社内にMDがいる製薬企業は極めて珍しかったですが、今では多くの製薬企業でMDが活躍しています。もちろん、企業ごとにMDの人数は異なりますが、昔は全社に1人、アドバイザーとして様々な部署からの相談に応じていたような感覚だったのが、今では外資大手の製薬企業を中心に、複数のMDを雇用し、チームの一員としてMDが機能しているような状況にもなってきていますね。
特に複数のMDを雇用している製薬企業では、MD同士でもすみ分けができてきており、将来的に管理職として人事管理を行うのか、あるいはスペシャリストとして研究開発・安全対策・メディカルアフェアーズなど特定の領域を極めるのか、というキャリアコースにも分かれてきています。
―やはり、外資の製薬企業ほど、MDの雇用が進んでいる状況でしょうか。
そうですね。日本製薬医学会の会員も20年前は80人程度だったのが、現在では医師以外の立場の人も含めて300人近くにまで増えています。このうちの6-7割が外資製薬企業のMDという構成になっています。
外資の方がMDを雇用する文化が根付いていますし、海外本社にMDのキャリアや役割についてのロールモデルがありますから、MDに期待する役割も比較的明確なようにも思います。
―一方で、製薬企業がMDを雇い入れる上で何か課題になっていることはありますか。
MDをまだ雇用し始めたばかりの段階では、とりあえず1人MDを雇用してみても、何をしてもらったらいいのか、人事部門や事業部門がわかっていないケースが散見されます。そういう状況だと、MDも何をしたらいいのかわからなくなってしまう。
企業の側が「MDを採用する段階で、期待する業務や役割を明らかにしておくべき」という面もあります。ただ一方で、もっとMDが企業での仕事に主体的に取りくむ姿勢を見せるべきと言えるかもしれません。いずれにせよ、どちらかが踏み込まなければ、企業の判断としては「試しにMDを雇ったけれど特に事業に良い影響はなかった」となり、MDもやりがいを見いだせずに辞めてしまうケースが生じています。
製薬企業のMDに求められる素養
―どんなMDであれば、製薬企業内で活躍できると思いますか。
目の前の仕事を客観視できる人ではないでしょうか。
医薬品産業に携わっている一方で、意識しなければいけないのは、「薬物療法は治療の1つの選択肢でしかない」という事実です。
製薬企業がビジネスを行う上で、「自社製品の価値を最大化させて、収益につなげる」という考え方は、非常に分かりやすいメッセージだと思います。でも、医薬品の効果には製品特性もあり、他の治療法との組み合わせ次第では限度もあるので、どこまでも価値を最大化させることはできません。他の治療選択肢を踏まえて、その医薬品が持っている本来の能力をわきまえた上で、適切なポジショニングを行う。これは「製品価値の最大化」ではなく、「最適化」といった方が正しいかもしれません。臨床現場を知っているMDは、そういうことを意識していかないといけないと思っています。
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