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withコロナ時代の産業医に、必要な心構えとは―Dr尾林の産業医ガイド(7)

2020年4月28日

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。その影響は世界規模に及んでおり、感染拡大の対策は待ったなしの状況です。みなさんが所属されている産業医先においても、少なくない企業でリモートワークが導入されていることでしょう。導入当初は、出勤時間の削減、無駄な会議の縮小、作業効率化などが謳われ、コロナ時代に適した作業環境である、との楽観的な見方が大勢を占めていました。

しかし、長期化の様相を呈し始めた昨今では、変化が見られます。「コロナうつ」と揶揄されるように、リモートワークによる従業員の疲弊が表面化し、決して楽観できないものであることが実感されてきているのです。ある研究によれば、現在のコロナ騒動が沈静化するのは2年先であるとも言われています。

そんな閉塞的なwithコロナ時代において、われわれ産業医が留意すべきポイントについてまとめました。

【執筆:尾林誉史(おばやし・たかふみ)】

withコロナ時代の産業医が留意すべきこと

産業医面談をもっと活用し、メンタル不調の芽を摘む

コロナ騒動におけるリモートワーク導入期には、人事・労務担当者より、「勤怠管理が形骸化しており、長時間労働者の検索が難しい」、「働いている姿が見えないため、産業医面談にアサインするきっかけが掴めない」などの声を、たくさんいただいていました。しかし、過渡期の現在では、「とにかく皆、疲れきっているようだ」、「『オンラインミーティングが終わると、涙が止まらない』、という声も聞いている」など、完全に業務由来とは言えないものの、従業員の疲弊に対する何らかの対処策を求める声が圧倒的に多いです。

こんな時代だからこそ、われわれ産業医の出番です。以前より私は、不要不急時における産業医面談の必要性を訴えてきました。メンタル不調の芽を摘むことに、大きな役割を見出していたからです。しかし、現実はそのフェーズをとうに過ぎ、産業医の双肩に、大きな期待が寄せられている状況です。

精神科のバックグラウンドを持つ産業医の先生方においては、人事・労務担当者の協力のもと、積極的な産業医面談を実施していただきたい。そうでないバックグラウンドの先生方においては、メンタルクリニックや精神科の受診を視野に、従業員の方々と向き合っていただきたいのです。受診することが頭をよぎっても、それを大きなハードルだと感じている方が少なくありません。医療従事者である先生方の適切な導きにより、産業医先の従業員の方々のメンタル不調を最小限に抑えることができるものと、私は確信しています。

正しい知識を、発信する

新型コロナウイルスに関する情報は、ネットを中心に溢れかえっています。すなわち、正しい知識とそうでない知識を選別することが、大変難しい時代とも言えます。トイレットペーパーが一時的に品薄になったことは、間違った情報が独り歩きした典型例とも言えるでしょう。

信頼できるニュースソースを絞り、正しい知識をしっかりと伝達する。産業医であるみなさんの果たす役割は、かつてないほどに重要性を増しているのです。以下のリンクは、新型コロナウイルス感染対策の最前線に立ち、情報更新もこまめにされている省庁や学会、医療機関などのリンク先がよくまとまっているものです。

産業医先の従業員の方々に対する、産業医の良識的な情報発信こそ、混乱を最小限に抑え、1日も早い健全な経済活動や安心できる毎日を取り戻す、大きな原動力になります。ぜひご活用いただければと思います。

※外部サイト:「産業保健職向け・新型コロナウイルス対応サイト集(随時更新)」

産業医自身も、メンタルを正しく保つために

みなさんが正しい知識を持ち、従業員の方々と向き合う必要性については上述しました。しかし、私も含め、みなさんも、この時代に不安を抱える、かよわき1人の人間です。みなさんが及ぼす影響力が大きいほど、そのストレスは決して低くないものでしょう。私が精神科医として、日々心掛けていることを以下に箇条書きにします。みなさんのメンタルを正しく保つヒントにしていただければ幸いです。

1. 相談者が回復するイメージを持つ

相談者は、ネガティブな気持ちに支配されていることが多いです。その気持ちにわれわれ自身も飲まれてしまうと、有効な打開策を検討する余力と柔軟性に欠けてしまいがちです。

「相談者は、何に困っているのか」、「どのレベルまで上昇すると、気持ちが落ち着くのか」を、面談開始時に(心の中で)必ず確認しましょう。そして、そのための戦略を緻密に練ることから着手するのではなく、まずはゴールイメージを定めましょう。一番大事なのは、「必ずゴールに辿り着ける」と、われわれ自身が強く信じること。この感覚が相談者に伝播し、ゴールに向かって相談者と共に歩む、信頼関係の形成に寄与します。

2. 答えは相談者が持っていると信じる

相談を受ける立場になると、得てして、「何かよいアドバイスをしたい」、「具体的な答えを提示してあげないと、役に立った気がしない」との思いに駆られるものです。相談業務を始めて間もない頃は、優れたアドバイスや役立つ情報をそこまで提供できず、焦ってしまうのです(もちろん、私も例外ではありません)。

しかし、われわれが果たすべき役割は、「いかに相談者の本音を引き出し、そのために自身で歩み出そうとしている一歩を、温かく見守れるか」に尽きます。 意外に思われるかもしれませんが、相談者は自身の中に、辿るべきルートやゴールのイメージをぼんやり持っているものです。そこに辿り着くための安心材料が、われわれの温かな視線であり、肯定的な後押しなのです。明らかに相談者が暴走しそうな時は、立ち止まるよう促すことも稀にありますが、自分自身がよりよい状態になるために検討した結果なので、概ね望ましい転帰となるものが多いように感じています。

尾林 誉史
おばやし たかふみ
 

東京大学理学部化学科卒業後、株式会社リクルートに入社。2006年、産業医を志し退職。2007年、弘前大学医学部3年次学士編入。2011~13年、産業医の土台として精神科の技術を身に付けるため、東京都立松沢病院にて初期臨床研修修了。2013年、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局。医療法人厚生会道ノ尾病院を経て、2020年にVISION PARTNER メンタルクリニック四谷を開業。リクルートグループの嘱託産業医を経て、主に東京に本社のある企業10社の産業医も務めている。

同テーマの記事シリーズはこちら

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