1. m3.comトップ
  2. キャリアデザインラボ
  3. 転職ガイド
  4. 企業(産業医・MD・社医)
  5. ストレスチェック、その活用方法とは?―Dr尾林の産業医ガイド(5)
企業(産業医・MD・社医)

ストレスチェック、その活用方法とは?―Dr尾林の産業医ガイド(5)

2018年5月1日

すでにご承知のことと思いますが、「労働安全衛生法」が改正され、従業員が 50 人以上いる企業では、2015年12月から毎年1回、ストレスチェックを全ての従業員に対して実施することが義務付けられました(契約期間が1年未満の従業員、労働時間が通常の従業員の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は、義務の対象外)。その内容に厳密な制約はないのですが、実際には職業性ストレス簡易調査票(いわゆる57項目)そのもの、もしくはそれに準拠した内容にて実施している企業が大半のことと思います。わたしが携わっている企業でも、まずは57項目から開始しているのが実態です。これに代わる質問紙票がないことも事実なのですが、まずは法に準拠して始めることが肝要です。今回は、ストレスチェックをどのように開始し、その実施内容をどのように活かすべきかを前向きに考えてみましょう。

【執筆:尾林誉史(おばやし・たかふみ)】

協働体制をつくって、作業を内製化しましょう

「ストレスチェックを実施しなければいけないのは分かるけど、どうしたらよいのだろう?」と、思い悩む企業も少なくないと思います。実は、厚生労働省が推奨している職業性ストレス簡易調査票に関しては、質問内容も集計方法も厚労省のホームページに開示されているのです(下記参照)。質問票の作成方法も集計方法も、さほど難しいものではありません。ストレスチェックを代行してくれる会社も多数ありますが、社内でエクセルをある程度使いこなせる方がいるのであれば、その方に事務作業を依頼することをお勧めします。社内で担当者を決め、産業医と協働するだけで、驚くほど簡便に実施できるためです。

面談を希望するか、あらかじめ聞いてみましょう

法的には、ストレスチェックを実施後、高ストレス者と認められる従業員に対してのみ、面談希望を聞くことが必須事項になります。それはそれで行うこととして、ストレスチェック実施時に、「結果に関わらず、産業医との面談を行うこともできます。お話ししてみませんか?」と尋ねてみることをお勧めします。厳密ではありませんが、わたしが携わっている企業では、従業員数の10~30%程度が高ストレス者と判断され、そのうち10%程度が面談を希望するような実感値です。質問紙票の限界として、「こう答えれば、こう判断されるだろう」と、質問内容から診断結果をある程度類推されてしまうため、正直に回答する従業員は、どうしても少なめに出てしまいます。ストレスチェックは、従業員の声を拾い上げる絶好の機会。隠れたニーズを抽出するためにも、産業医面談という開かれた場があることを事前に知らせてしまうことをお勧めします。

ストレスチェック実施後の面談は、速やかに行いましょう

わざわざご説明するまでもないかもしれませんが、ご本人が望まれた面談機会を、会社都合で棚上げにするメリットは全くありません。ストレスチェック導入直後には、種々の制約から、実施から面談までに半年以上の期間を要してしまった企業もありました。幸い、「あの時期は確かに大変でした。でも、いまは落ち着いています」といった内容が多数であったため、お互いにとって致命傷には至りませんでしたが、それはあくまでも結果論に過ぎません。面談を望むのは、それなりの理由があってのこと。ご本人が困っている時期に、面談を速やかに実施することは、何を置いても優先されるべきと思います。今後、認知も含めて制度が成熟してくれば、「面談を希望したにもかかわらず、適切な時期に対応してもらえなかった」というトラブルが生じることも十分に考えられます。リスク回避の観点は副次的なものですが、ご本人の声にしっかりと耳を傾ける企業スタンスは、明確にしておくべきでしょう。

ストレスチェックは、法をクリアするための義務ではない

これまでの連載でも記してきましたが、わたしが考える「産業医の在り方」を実践していますと、ストレスチェックで新たな潜在層が湧き出てくる現象は、正直なところ、ほとんど起こりません。逆に言えば、理想的な産業医活動が営めていれば、ストレスチェック制度は不要なのです。詳しくは前稿に譲りますが、「今年のストレスチェックでは、大きな動きがなかったな」と思えれば、健全な産業医活動が回っている証左でしょう。ただ、限られた訪問時間をカバーする仕組みを作り、人事・労務の方々を味方につけてもなお、目が届かぬ従業員の方は、どうしても出てくるもの。例えば、ストレスチェックを機に、役員クラスの方が「今後のキャリアを見直したい」と申し出てきたり、これまで申告しにくかった、がん治療と仕事の両立について見つめなおす機会を求めてこられたりするケースもありました。ストレスチェックが真情を吐露する良い機会となった事例は、少ないとは言え、実際に存在します。ストレスチェックは、法をクリアするための義務ではなく、産業医活動の幅を拡げてくれるチャンスと捉え、着実に、かつ積極的に行っていただきたいと思います。

尾林 誉史
おばやし たかふみ
産業医

東京大学理学部化学科卒業後、株式会社リクルートに入社。2006年、産業医を志し退職。2007年、弘前大学医学部3年次学士編入。2011~13年、産業医の土台として精神科の技術を身に付けるため、東京都立松沢病院にて初期臨床研修修了。2013年、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局。同時期に、精神科の後期臨床研修を岡崎祐士先生(前・東京都立松沢病院院長)のもとで受けるべく、長崎市にある医療法人厚生会道ノ尾病院に赴任。リクルートグループの嘱託産業医を経て、主に東京に本社のある企業6社の産業医も務めている。

同テーマの記事シリーズはこちら

m3.com産業医専用コーナーのご案内

【m3.comに産業医専用コーナーがオープンしました】

https://career.m3.com/feature/sangyoui/

M3グループでは、産業医の先生方向けにお役立ちコーナーをオープンいたしました。 求人情報だけでなく、お役立ちコラムや、他の産業医の先生方と交流いただける質問コーナーをご用意しております。 今後もコンテンツを増やしてまいりますので、ぜひご利用ください。

産業医としてのキャリアをご検討中の先生へ

エムスリーキャリアでは産業医専門の部署も設けて、産業医サービスを提供しています。

「産業医の実務経験がない」
「常勤で産業医をやりながら臨床の外勤をしたい」
「キャリアチェンジをしたいが、企業で働くイメージが持てない」

など、産業医として働くことに、不安や悩みをお持ちの先生もいらっしゃるかもしれません。

エムスリーキャリアには、企業への転職に精通したコンサルタントも在籍しています。企業で働くことのメリットやデメリットをしっかりお伝えし、先生がより良いキャリアを選択できるよう、多面的にサポートいたします。

この記事の関連記事

  • 企業(産業医・MD・社医)

    産業医が知っておきたい「衛生委員会」とは

    企業が定期的に実施する「衛生委員会」の概要と、産業医に求められている活動について紹介します。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    産業医が知っておきたい「健康経営」の実践内容とメリット

    企業において注目度の高まる「健康経営」の実践内容とメリットを紹介します。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    非常勤産業医(嘱託産業医)の働き方と給与相場

    非常勤(嘱託)産業医の働き方と給与相場について解説します。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    〈2023年版〉産業医を取り巻く業界動向

    産業医を取り巻く業界全体の動向は?産業医になる方法、業務内容などについてまとめました。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    産業医キャリアの魅力とは? 将来の選択肢として考える医師も

    医師が感じる産業医キャリアの魅力とは?アンケート調査の結果を公開します。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    コロナ禍で信頼される産業医になるには

    新型コロナウイルス感染症の影響により、オフィス環境ではオンライン化が急速に進み、産業保健業務にも一部変化が起こっています。訪問制限をはじめ、さまざまな制約がある中で、産業医の価値を発揮するのはどうしたらいいのでしょうか。中小企業を中心にサポートをしているOHサポート株式会社代表で産業医の今井鉄平先生に聞きました。(取材日:2020年8月19日)

  • 企業(産業医・MD・社医)

    産業医は、経営者の参謀役になれ

    新型コロナウイルス感染症により、仕事や生活インフラのオンライン化が進み、産業保健業務にも一部影響が及んでいます。今回はコロナ禍の労働環境を整理しながらwithコロナ時代の産業医に求められるスキルやマインドを、中小企業を中心にサポートするOHサポート株式会社代表で産業医の今井鉄平先生に聞きました。(取材日:2020年8月19日)

  • 企業(産業医・MD・社医)

    withコロナ時代の産業医に、必要な心構えとは―Dr尾林の産業医ガイド(7)

    新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。みなさんが所属されている産業医先においても、少なくない企業でリモートワークが導入されていることでしょう。導入当初はコロナ時代に適した作業環境である、との楽観的な見方が大勢を占めていましたが、長期化の様相を呈し始めた昨今では、変化が見られます。withコロナ時代において、われわれ産業医が留意すべきポイントについてまとめました。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    “名ばかり産業医”に終止符を―Dr尾林の産業医ガイド(6)

    これまでに、現在、そして、今後求められていくだろう産業医の姿について、わたしなりの経験と知見を含めてつづってきました。おこがましくも、共感いただけた方にはなかなかに示唆に富んだ内容であったのではないかと自負している一方で、疑問しか残らなかった方には、時代の動向が掴めていない危機感を、熱く、冷静に語らせていただきます。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    「この人はメンタル不調」SOSサインを積極的に掴む、3つの条件―Dr尾林の産業医ガイド(4)

    メンタル問題への対応で目指すべきはもちろん一次予防。ただ、現実的には三次予防の対応を行い、二次予防に目を光らすだけで、現場は手一杯なことでしょう。一次予防を諦めましょうと言うつもりは、もちろんありません。しかし、三次予防や二次予防を行うにあたり、工夫の余地がまだまだあるのも事実です。今回は、一次予防を目指すためにも、三次予防と二次予防に焦点を当て、わたし自身の経験からそのヒントをお話したいと思います。

  • 人気記事ランキング

    この記事を見た方におすすめの求人

    常勤求人をもっと見る