「衛生委員会に出席して、職場巡視して、最近だとメンタルの問題に対応するのが産業医の仕事でしょ?」――そんな風にお思いの先生方は多いかもしれません。これに対する答えは「正しいけれども、正しくない」です。特に衛生委員会のあり方については、まだまだ誤解がある印象を受けます。個々の業務の目的を理解し、しっかりと取り組むほどやりがいを感じられるのが産業医業務です。今回は、衛生委員会について触れてみたいと思います。
【執筆:尾林誉史(おばやし・たかふみ)】
産業医の衛生委員会への参加は、必須ではない?!
突然ですが、ここで衝撃的な事実をお伝えします。産業医は衛生委員会の構成員として認められていますが、出席や欠席は、衛生委員会の開催要件にはなっていません。つまり、産業医が衛生委員会に出席する義務は必ずしもないのです(詳細は別稿に譲りますが、このことが産業医として籍だけおいて何もしない、いわゆる「名義貸し」の温床となっています)。
そうなると、どうでしょう。産業医は職場巡視、健康診断、ストレスチェックだけ対応して、必要に応じて面談だけ行えばよい―。極論すると、そうなってしまいます。法的にはそれで何ら問題はありませんが、この事実を知った時、わたしはかなり衝撃を受けました。わたしの場合、健康診断は企業側も多くを対応してくれるため、究極的には「職場巡視、ストレスチェック、面談だけ対応してくれればよい」と言われているようなものだったからです。
あえて「やる」からこそ、感じるやりがい
わたしは担当している企業先に、「可能な限り衛生委員会に出席させてほしい」とお願いしています(もちろん、始めから出席を依頼してくる企業先もあります)。「出席義務がないなら欠席しても問題ないのでは…」とお考えの先生方もいるかと思いますが、前回の記事で触れたように、面倒なことは避けたいとお考えになるのであれば、残念ながら産業医業務は向いていないと思います。産業医の真のやりがいは、この面倒とも言える業務を通じてこそ感じられるものだからです。
産業医の法定義務は、職場巡視やストレスチェックのみならず、年1回以上の健康診断や面接指導、就業上の環境に対する医学的見地からの助言など、重要な項目ばかりです。しかしそれらは、従業員の働きがいを最低限担保する「手段」にすぎません。産業医は、従業員の健康と働きやすい環境を実現するために、事業者に勧告したり、指導・助言したりすることもあります。事業者と従業員の意見が相容れないなど、対応に難渋する場面はありますが、それは当たり前の苦労だとわたしは思います。従業員の悩みに寄り添い、時には企業のトップに敢然と進言する―。こんなダイナミックな仕事は、産業医以外には味わえないのではないでしょうか。
受け身ではなく、攻めの姿勢で
実際の衛生委員会では、世相を反映してメンタルの話題が多く出ます。しかし、メンタル問題について話し合っても、それを予防するための策を考えなければ意味がありません。たとえば、わたしが担当している企業先の1つでは、従業員代表を各部署から選出して衛生委員会に加わっていただています(構成員が遠くにいる場合にはWebミーティングを実施するなど、可能な限り幅広い人に参加してもらっているほどです)。その理由は、各オフィスや事業部にメンタルの問題が芽生えていないか、徹底的に洗い出すため。衛生委員会は、従業員の方々の息遣いを感じられる絶好の機会なので、これを活かさない手はありません。メンタル不調者の面談をするにしても、衛生委員会で現場のメンタルケアの様子を把握しているかどうかによって、当然ながらその後の転帰は変わってきます。委員会の内容に工夫を凝らすことで従業員のコミットも深まるうえ、結果的に離職率も下がり、事業者からも評価されるのです。
せっかく対価をいただくのであれば、自ら機会を作り出し、従業員からも事業者からも、深く感謝される存在でありたいと思いませんか。受け身でなく、ぜひ攻めの姿勢で、産業医業務の躍動感を肌で感じていただきたいと思います。
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