1. m3.comトップ
  2. キャリアデザインラボ
  3. 転職ガイド
  4. 企業(産業医・MD・社医)
  5. 産業医は、経営者の参謀役になれ―withコロナ時代の産業医(前編)
企業(産業医・MD・社医)

産業医は、経営者の参謀役になれ―withコロナ時代の産業医(前編)

2020年9月11日

新型コロナウイルス感染症により、仕事や生活インフラのオンライン化が進み、産業保健業務にも一部影響が及んでいます。今回はコロナ禍の労働環境を整理しながらwithコロナ時代の産業医に求められるスキルやマインドを、中小企業を中心にサポートするOHサポート株式会社代表で産業医の今井鉄平先生に聞きました。(取材日:2020年8月19日)

産業医も相手のニーズに応える時代

今井鉄平先生(本人提供)

――新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響で、産業医業務に変化はありましたか。

新型コロナで大きく変わった業務はないと感じます。

ただ、数年前から労働基準監督署のチェックが厳しくなり、名義貸しの“名ばかり産業医”が特に問題視されるようになりました。そのため、企業も産業医の質を重視するようになったと感じていました。

緊急事態宣言前後、多くの企業が産業医訪問を制限する中で「当面来なくていい」と断られるようになった産業医と、「オンラインでもいいから続けてほしい」と依頼を受けた産業医とで、2極化したのではないかと予想しています。前者の産業医は十分に企業の役に立っていないため、別の産業医に変えられてしまうリスクを孕んでいるのかと思います。

――「オンラインでもいいから続けてほしい」と言われるような産業医は、どのような点が評価されているのでしょうか。

企業ニーズに沿った対応ができることではないでしょうか。それはつまり、従業員の話を聞いて、企業の求めに柔軟に答えることです。一見、当たり前のことに見えますが、中には自分の専門性や思いを押し付け、企業から敬遠されてしまう産業医も少なくありません。

なお、企業ニーズには訪問時間や費用も含まれます。正直なところ、特に中小企業においては必ずしも過剰なサービスを求めていません。産業医として2~3時間訪問したくても、企業が1時間でお願いしたいと言えば、時間内でできることを考える姿勢が求められます。産業医が動く分、相手の時間を使うことにもなる点は意識しておいた方がいいでしょう。

――企業と良い関係性を築くため、産業医が心がけたいことは何ですか。

先にも述べた通り、相手のニーズに沿った行動の積み重ねが信頼関係につながります。

私の場合、企業からの相談が来た時は、9割は常識の範疇のこと、1割新たな視点で答えるようにしています。相手も自分なりに調べ、考えてから相談に来ているので、9割の中で認識を合わせた上で1割の新規な意見をもらうと受け入れやすく、「こんなことも提案してくれるんだ」という期待にもつながりやすいと感じています。企業から相談を受けて、何も解決できないと産業医の価値が下がってしまうので、まずは困りごとに寄り添う姿勢が大切だと思います。

なお、初対面からオンラインでやりとりする時は対面よりも信頼関係が築きにくいと思います。なので、ニュースレターを送ったり、会議の日を設けたり、最低でも月1回は何らかのコンタクトを取るようにし、定期的に産業医の価値を伝えることをおすすめします。

産業医こそ正確な情報収集を

ウェブ取材に応じる今井鉄平先生

――新型コロナ禍の今、産業医に求められる役割を教えてください。

新型コロナについては、不正確な情報を含め、さまざまな情報が流れています。こうした状況下では、産業医が経営者の参謀役として、経営判断に必要かつ正確な情報を渡すことが求められているのではないでしょうか。情報はそのまま渡すのではなく、経営者が事業継続や感染防止について正しく判断できるように整理することがポイントです。

――正確な最新情報を得るには、どのような発信元を参考にするのが良いでしょうか。

厚生労働省による「新しい生活様式」を受け、各省庁が業界・業種別のガイドラインを出しています。産業医向けなら、日本産業衛生学会のガイドラインが最も活用できると思います。そのほか、私も他の産業医と有志グループを作り、東京商工会議所から企業向け新型コロナウイルス対策情報を発信しているので、参考にしていただけたらと思います。

ただし、行政や学会、各種団体は情報をまとめるのに時間がかかるため、どうしてもタイムラグが生じます。情報をまとめている間、新型コロナの状況がガラッと変わる可能性は否定できません。そのため、最新情報は信頼できる公衆衛生や感染症の専門家を見つけて、彼らがインターネットで発信する情報を日々取りに行くことが良いと思います。

――ちなみに産業医同士で情報交換できる場はありますか。

Facebookでは規模の大小問わず、さまざまなオンラインコミュニティがあります。もう少ししっかりした場なら、産業医アドバンスト研修会があります。有料ですが参加資格は問われず、質の高いコンテンツが提供され、意見交換もできるのでおすすめです。

――このような状況下、産業医のスキルアップにはオンラインが活用できそうですね。

はい。企業への訪問が制限されたり、対面での研修がなくなったりして不安かもしれませんが、オンラインは時間と場所を問わずに参加できるので、以前よりも知識やスキルを身に着けやすい環境だと思います。先に述べた学会や研修会、オンラインコミュニティは積極的に活用してほしいですね。

選任義務のある企業は15%に過ぎない

――改めて、withコロナ時代の産業医のやりがいについて教えてください。

先にマイナス面からお伝えすると、産業医は予防中心のため、臨床に比べて感謝される機会があまりありません。とはいえ、継続的に関わる中で体調不良者が出なければ嬉しいですし、企業担当者が困った時に相談に来てもらえると頼られているやりがいを感じます。たとえ企業内で休職者が出てしまっても、復帰してもう一度働けるようになればそれも嬉しい成果です。

あとはこれからの社会的意義が大きい仕事だと思っています。全国に約360万企業がある中、産業医の選任義務がある企業は15%ほどで、残りの85%は50人未満の小規模企業のため産業医の選任義務がありません。そのため、労働環境が整っていない企業はまだたくさんあり、産業医がやるべきこともたくさんあります。私自身、まずは選任義務のある15%のところに確実に産業保健を提供しつつ、小規模企業にもリソースを広げながら、困っている労働者を救っていきたいと思います。

関連リンク
日本産業衛生学会 https://www.sanei.or.jp/
企業向け新型コロナ対策情報 http://www.oh-supports.com/corona.html
産業医アドバンスト研修会 https://johta.jp/
同テーマの記事シリーズはこちら

産業医としてのキャリアをご検討中の先生へ

エムスリーキャリアでは産業医専門の部署も設けて、産業医サービスを提供しています。

「産業医の実務経験がない」
「常勤で産業医をやりながら臨床の外勤をしたい」
「キャリアチェンジをしたいが、企業で働くイメージが持てない」

など、産業医として働くことに、不安や悩みをお持ちの先生もいらっしゃるかもしれません。

エムスリーキャリアには、企業への転職に精通したコンサルタントも在籍しています。企業で働くことのメリットやデメリットをしっかりお伝えし、先生がより良いキャリアを選択できるよう、多面的にサポートいたします。

この記事の関連記事

  • 企業(産業医・MD・社医)

    産業医が知っておきたい「衛生委員会」とは

    企業が定期的に実施する「衛生委員会」の概要と、産業医に求められている活動について紹介します。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    産業医が知っておきたい「健康経営」の実践内容とメリット

    企業において注目度の高まる「健康経営」の実践内容とメリットを紹介します。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    非常勤産業医(嘱託産業医)の働き方と給与相場

    非常勤(嘱託)産業医の働き方と給与相場について解説します。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    〈2023年版〉産業医を取り巻く業界動向

    産業医を取り巻く業界全体の動向は?産業医になる方法、業務内容などについてまとめました。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    産業医キャリアの魅力とは? 将来の選択肢として考える医師も

    医師が感じる産業医キャリアの魅力とは?アンケート調査の結果を公開します。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    コロナ禍で信頼される産業医になるには

    新型コロナウイルス感染症の影響により、オフィス環境ではオンライン化が急速に進み、産業保健業務にも一部変化が起こっています。訪問制限をはじめ、さまざまな制約がある中で、産業医の価値を発揮するのはどうしたらいいのでしょうか。中小企業を中心にサポートをしているOHサポート株式会社代表で産業医の今井鉄平先生に聞きました。(取材日:2020年8月19日)

  • 企業(産業医・MD・社医)

    withコロナ時代の産業医に、必要な心構えとは―Dr尾林の産業医ガイド(7)

    新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。みなさんが所属されている産業医先においても、少なくない企業でリモートワークが導入されていることでしょう。導入当初はコロナ時代に適した作業環境である、との楽観的な見方が大勢を占めていましたが、長期化の様相を呈し始めた昨今では、変化が見られます。withコロナ時代において、われわれ産業医が留意すべきポイントについてまとめました。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    “名ばかり産業医”に終止符を―Dr尾林の産業医ガイド(6)

    これまでに、現在、そして、今後求められていくだろう産業医の姿について、わたしなりの経験と知見を含めてつづってきました。おこがましくも、共感いただけた方にはなかなかに示唆に富んだ内容であったのではないかと自負している一方で、疑問しか残らなかった方には、時代の動向が掴めていない危機感を、熱く、冷静に語らせていただきます。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    ストレスチェック、その活用方法とは?―Dr尾林の産業医ガイド(5)

    「労働安全衛生法」が改正され、従業員が 50 人以上いる企業では、2015年12月から毎年1回、ストレスチェックを全ての従業員に対して実施することが義務付けられました(契約期間が1年未満の従業員、労働時間が通常の従業員の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は、義務の対象外)。今回は、ストレスチェックをどのように開始し、その実施内容をどのように活かすべきかを前向きに考えてみましょう。

  • 企業(産業医・MD・社医)

    「この人はメンタル不調」SOSサインを積極的に掴む、3つの条件―Dr尾林の産業医ガイド(4)

    メンタル問題への対応で目指すべきはもちろん一次予防。ただ、現実的には三次予防の対応を行い、二次予防に目を光らすだけで、現場は手一杯なことでしょう。一次予防を諦めましょうと言うつもりは、もちろんありません。しかし、三次予防や二次予防を行うにあたり、工夫の余地がまだまだあるのも事実です。今回は、一次予防を目指すためにも、三次予防と二次予防に焦点を当て、わたし自身の経験からそのヒントをお話したいと思います。

  • 人気記事ランキング

    この記事を見た方におすすめの求人

    常勤求人をもっと見る