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企業(産業医・MD・社医)

コロナ禍で信頼される産業医になるには―withコロナ時代の産業医(後編)

2020年9月14日

新型コロナウイルス感染症の影響により、オフィス環境ではオンライン化が急速に進み、産業保健業務にも一部変化が起こっています。訪問制限をはじめ、さまざまな制約がある中で、産業医の価値を発揮するのはどうしたらいいのでしょうか。中小企業を中心にサポートをしているOHサポート株式会社代表で産業医の今井鉄平先生に聞きました。(取材日:2020年8月19日)

常に+コロナ対策の視点を

――ここからは具体的な産業医業務についてお聞きします。まず、コロナ禍での衛生委員会について、産業医が気を付けたいことは何ですか。

新型コロナの情報に限らず、どんなことでも、1回伝えただけでは相手の心に残りません。そのため、感染症対策の基本など、大切なことは何度も繰り返し伝えましょう。その際、たとえば8月なら熱中症など、企業が関心を持ちそうなトピックと合わせて盛り込んでも良いでしょう。

また、感染症対策は業界・業種ごとに適したかたちがあります。オフィスと現場作業、現場作業でも運輸と介護ではまったく違うと想像できるはずです。リスクポイントを自分事化しやすいよう、事業実態に合わせて伝える意識を忘れないようにしたいですね。

――職場巡視では、従来の項目に加えて「3つの密(密閉、密集、密接)」も重要なチェックポイントになったのではないでしょうか。

おっしゃる通りです。巡視の際は、厚生労働省から発表されている「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」をもとに確認すると良いです。

執務室はもちろんですが、時間帯によって密になる可能性が高い喫煙室、食堂、更衣室、休憩室なども忘れずにチェックしましょう。また会社保有の寮も対策を忘れてはなりません。特に外国人実習生向けの寮は、4人1部屋で生活しているところもあると聞きます。その場合、個室か、せめて2人部屋にする、夜間の集まりを禁止するといった対策が必要になります。

――職場巡視をオンラインで行っている事例はありますか。

50人未満の事業所やコロナ禍で訪問が難しい状況下では、製造業などの工場でありました。企業担当者にスマートフォンを持って巡回してもらい、その映像を見ながら産業医がチェックします。コロナ禍でも現場が変わらず稼働を続けている事業所の職場巡視は丁寧に行う必要があると思います。

一方、テレワークを導入したオフィスでは、出社が数人というケースもあるはずです。その場合は職場巡視を簡単に済ませ、衛生委員会や面談の充実などに時間をかけたほうがいいかもしれません。

“オンラインならでは”を意識

――改めて新型コロナで推進された、テレワークのメリット・デメリットを教えてください。

メリットは、通勤時間がなくなって有効に使える時間が増えたことや、余計な人間関係に振り回されなくなったことなどを聞きます。デメリットはメリットの裏返しで、通勤時間がない分だけ運動不足になる、コミュニケーション不足で孤立感を感じる、オンとオフの区別ができなくなる、などです。

――このような状況下、産業医が積極的に行うべき健康支援策を教えてください。

先ほどのデメリットにあるコミュニケーション不足は、コロナ禍ならではの課題だと感じます。この課題については管理職の方に、最低でも1日に1回はウェブ会議ツールを使って話すなど、今までよりもコミュニケーションの機会を増やすように伝えています。一方、一般社員には、異変を感じた時にすぐ相談できるよう社内外の相談窓口リストを渡しておくこともいいでしょう。運動不足とコミュニケーション不足を一度に解消する方法として、ウェブ会議ツールをつなぎながら全員でラジオ体操をする企業もありました。

ウェブ取材に応じる今井鉄平先生

――産業医業務の要とも言える産業医面談を、オンラインで行うメリットを教えてください。

メリットは産業医も面談を受ける社員も、対面よりも時間と場所に縛られないことです。私が代表を務めるOHサポート株式会社では、コロナ禍以前からオンラインの産業医面談を行っていました。対象は産業医選任義務のない50人未満の企業で、訪問義務がないため日本全国で対応しております。ある程度規模の大きな企業でも、小規模な地方支店や営業所の労務環境が放置されやすいので、そのあたりもオンライン面談でカバーできるようになってきたと思います。

またオンライン面談は表情が見えるので、慣れてくるとかなり対面に近い感覚で話せます。ただ、空気感や話しやすさを考えるなら、対面の方が良いでしょう。また、オンラインに慣れるまではある程度の時間が必要でしょう。

――企業の中にはウェブ会議ツールの導入が難しく、電話やメールで対応したところもあったようです。それぞれのツールの使い分けについてはどう思いますか。

電話やメールは、緊急時にすぐ相談できる点がメリットだと思います。ウェブ会議ツールを使うにもお互いの日程調整をしなければいけない分、多少のタイムラグが生まれます。そのため産業医業務に関しては最低限の判断を電話・メールで行い、後日ウェブ会議ツールで補完するのが良い方法だと思います。

また中小企業では、さまざまな理由でウェブ会議ツールの導入がどうしても難しいところはあるはずです。その場合、以前にも述べた通り、産業医は相手のニーズに合わせて対応することが大切だと思います。

――最後に、担当する企業で、新型コロナ陽性者が発生した場合、産業医は何をしたらいいのでしょうか。

冷静な立場からアドバイスをすることです。

すでに準備できている企業が多いと思いますが、感染者が出る前に、新型コロナ対応のガイドラインやマニュアルをまとめておくことが大事です。作成は企業中心で、産業医はアドバイスするくらいの関わり方でよいでしょう。そこで念入りに準備をしていたとしても、いざ感染者が出ると担当者はパニックになります。産業医はまず、担当者が慌てると理解した上で、マニュアルの確認など、事前に決めておいた手順に基づく行動を冷静に促してあげることが大切です。なお、保健所との連携は企業側だけでできます。保健所の指示がない部分や、従業員の自宅待機や復職に関するアドバイスなどは企業にとって、ありがたがられるでしょう。冒頭にも申し上げたように、産業医は企業の参謀として振る舞うことが大切だと思います。

関連リンク
厚生労働省「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」 https://www.mhlw.go.jp/content/000657665.pdf
同テーマの記事シリーズはこちら

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