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現場の産業医に実態を聞く【新日鐵住金】Vol.1―産業医キャリアを振り返って

2014年2月12日

vol_1

社会情勢の変化や制度改正によって、働き方に大きな影響を受ける産業医。今回は、新日鐵住金株式会社・君津製鐵所の専属産業医で、産業医科大学出身者らで組織する産業医学推進研究会の会長や日本産業衛生学会産業医部会副部会長も務める宮本俊明先生に、これまでのキャリアについて振り返りながら、産業医を取り巻くこれまでの動向と、これからの課題を解説してもらいました。

産業医の資格制度もなかった“道なき道を行く”時代

―産業医科大学をご卒業後、当時の新日鐵の君津製鐵所に入社されたと伺いました。

製造所の産業医を見学して興味を持ったのがきっかけで、産業医科大学を卒業した1990年に当時の新日鐵に入社し、千葉労災病院で3年間の臨床研修を受けた後に君津製鐵所で産業医として働き始めました。

ただ、当時はまだ産業医資格も制度化されておらず、医師なら誰でも産業医になれた時代です。産業医経験を積んだ医師も少なかったので、産業医科大学であっても、産業医の専門性を教えるためのカリキュラムは今ほど整っていなかったように思います。

わたし自身、実際に産業医業務に従事するようになってからも、道なき道を行くような感覚で、「そもそも産業保健とは何か」「目の前の事象にどう対応すべきか」を先輩医師と議論したり、産業医科大学の同窓生に事例を聞いたりしながら、積み重ねていかなければなりませんでした。

「産業医」という言葉の認知度も低い状況でしたが、そうした環境が変わり、産業医の知名度が急激に上がったきっかけになったのが、1996年に行われた産業医の専門性の確保施策でした。

「産業医の意見に専門性と強制力を」

労使から独立した立場で、会社に対して意見できる医師として、産業医が専門資格化されたことはとても画期的な出来事でした。
働く人の健康診断や指導は、医師であれば誰でもできると思います。しかし、産業医はそれに加えて「こういう健康状態の人に、こんな働き方をさせてはいけない」という判断と理由を、企業に説明しなければいけません。その説明内容には、専門的な根拠とそれに従わせる強制力を持たせたかった。そのために行われた業務独占の専門資格化でした。

ただ、資格化されたあとも、産業医の存在意義が社会に浸透するには一定の期間を要しました。地域の医療機関の医師が、「この患者は職場復帰できる」と判断したのに、産業医が職場の周辺状況改善が未達成なことなどを理由に「待った」をかけたことで、主治医とトラブルになるような場面は、今より多かったように思います。
産業医という役割への理解促進を図り、地域の医療機関との連携体制を構築するためには、学会で産業医の関与が労働者の健康に及ぼす影響を地道に発表したり、地域の医療機関をまわって産業医の立場を説明したりすることも必要でした。

事業者の教育は産業医の仕事か

―産業医が資格化され、専門性と強制力が担保された一方で、その果たす役割についての浸透も進められてきたと。一方で、今日の産業保健の課題はどういうところにあると思いますか。

vol_2特に医師会の産業医有資格者の間でよく話題になるのは、「企業や事業者への教育は誰がすべきか」という問題ですね。
社員の健康管理にどこまで本腰を入れるかは、その企業の判断に依りますが、残念ながら、すべての企業が社員の健康保持のために高い意識を持っているわけではありません。

産業医を理解していない・活用できていない企業があり、社員の健康が脅かされてしまうとすれば、企業に健康対策の意義を誰かが教える必要が生じます。今は選任された産業医が地道に指導するしかないのですが、それは果たして産業医の仕事なのだろうかということです。かといって労働基準監督署の数名の監督官が、管内の膨大な数の企業をすべて点検するというのも、現実的ではないように思います。

特に、問題視されやすいのは中小企業の健康対策ですね。100人に1人の割合で起こる健康障害のリスクがあったとしても、小規模な企業だと、1人起こるか起こらないかのレアケースになりますから、現実味がないので具体的な対策につながりづらい。日本全体で見れば、大企業よりも、中小企業で働いている人の方が総和としては圧倒的に多いにもかかわらずです。
大企業であれば、産業医を配置する法的義務があるので、健康対策への一定の働き掛けは起こり得ますが、従業員50人未満の企業には、そもそもこうした配置義務もありません。医療機関の医師の目線で言うと、「目の前の患者に就業制限が必要」と判断しても、その患者の勤務先に連携の取れる産業医がいるのかどうか。中小企業の場合は患者に聞いてみても、よくわからないことがあるようです。

産業保健の分野ではさまざまな法整備も進められ、意欲的な先行事例も集まってきていますが、一方で、取り残されてしまっている部分への対応も、今後は行っていかなければならないと思います。

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