「社医」とは、保険会社で医師資格を生かせるキャリアのひとつで、業務内容によっては「診査医」や「査定医」とも呼ばれています。現に、生命保険と個人年金の加入率は89.2%(平成27年度 生命保険に関する全国実態調査)と高い水準を維持しており、一定数のニーズがあると考えられますが、具体的にどのような業務を行っているのでしょうか。
メインは保険(加入)希望者の3つの審査
保険会社の収益は、保険加入者が毎月支払う保険料の運用で成り立っています。その状況下で、すでに重大な疾患を抱える人が他の人と同様の契約をしてしまうと、短期間で保険金や給付金が支払われることになり、既存加入者との不公平が生じてしまいかねません。そこで、多くの保険会社では社医を採用して、加入希望者の健康状態を確認したうえで契約・支払いの判断をしているのです。
詳しい業務内容は企業によって異なりますが、社医の業務は大きく分けて、3つの審査(診査、引受け査定、支払い査定)の3つに大別されます。
(1)診査
診査とは、加入希望者に対して、視診、触診、血圧測定、検尿、問診などで持病の有無や健康状態を確認する業務のこと。その方法は、お客様に来社していただく来社診査か、社医がお客様の自宅や企業に出向く往診の2つがあります。しかし、すべての加入希望者に直接会うのは難しいケースもあるので、嘱託医を通して健康状態を確認することも。その際、診査基準にばらつきがでないよう、診査を委託する嘱託医に対する指示やマネジメントも重要な業務のひとつです。
(2)引受け査定
「診査」では社医自らが診察を行うのに対し、「引受け査定」では加入希望者が保険会社に提出する人間ドックの成績表や健康管理証明書などの書類をもとに、保険の加入が妥当かどうかを判断します。引受けが可能かどうかだけでなく、引受けるならどれくらいの保険料にするかも検討項目のひとつ。診査は省略されることがあっても、引受け査定は必ず行われる業務です。
(3)支払い査定
生命保険の場合は保険加入者が亡くなった際の死亡保険請求用診断書、医療保険やがん保険の場合は入院・手術等証明書(診断書)などの査定を行い、保険金支払いの正確性、妥当性や公平性を評価。医学的な情報を収集して、査定業務の担当者にアドバイスを行います。
最近は、他職種のマネジメントも
なお昨今では、今回紹介した2つの査定業務をアンダーライターという専門職が担っている保険会社も増えてきており、社医にはアンダーライターの機能的な統括・マネジメントを求められることも。保険会社への入職を検討する際には、診査業務に専念するのか、アンダーライターたちとの関わり方がどの程度まで必要なのかなどを確認しておくと、より実情を把握することができます。
ワークライフバランス志向の医師が増加中
保険の公平性を担保するために、なくてはならない社医。実際に働く際に、大きな魅力のひとつと言えるのが待遇面です。常勤の場合は、保険会社に勤める社員同様、週休2日制、基本的に9時~17時勤務という勤務形態が多く、年収相場は、医師としての経験年数等で差はありますが、1200万~1400万円。当直やオンコールはないため、ワークライフバランス志向の医師から人気が高い傾向にあります。高齢医師のセカンドキャリアとしてだけではなく、近年はプライベートを重んじる30代の若い医師からも支持されており、年齢層は幅広くなっています。
なお、臨床経験年数や専門科目は厳密に問われないことが多いようですが、幅広い疾患への対応能力が求められるため、一定数の臨床経験は積んでおいたほうが良いでしょう。
[ 記事監修 西川征洋(日本生命保険相互会社 医長/日本保険医学会 会長)]
保健会社で働く医師の事例
退局して34歳で保険会社の社医に―日本保険医学会 西川征洋会長(日本生命保険相互会社 医長)
働き方が多様化し、医師も医療機関“外”で働く選択肢が増えています。そんな中、明治時代からの歴史を有するのが、保険会社で働く医師・社医です。現在、生命保険の世帯加入率は89.2%(平成27年度 生命保険に関する全国実態調査)を占める日本において生命保険の公平性を担保する、なくてはならない存在ですが、そのキャリアヒストリーは世に埋もれがちです。そこで今回は、日本保険医学会で会長を務める西川征洋先生(日本生命保険相互会社 医長)に、ご自身のキャリアと社医を取り巻く環境について伺いました。
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