1. m3.comトップ
  2. キャリアデザインラボ
  3. ノウハウ
  4. コラム
  5. エビデンスだけで患者は満足できない?―『ブラック・ジャック』に学ぶキャリアvol.20
コラム

エビデンスだけで患者は満足できない?―『ブラック・ジャック』に学ぶキャリアvol.20

2021年1月26日

数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。『ブラック・ジャック』のストーリーと、現代の医療現場を照らし合わせながら、さまざまな角度で考察する本企画。今回は、エピソード「目撃者」より、患者への寄り添い方について考えます。

「5分で再び失明」でも、手術をするかどうか

何者かが駅に置いた時限爆弾により、多数が死傷する事件が発生。偶然、犯人を目撃していた女性は、爆発によって両目を失明してしまいました。警察は、犯人を突き止めるために、彼女の目を治す手術をしてほしいと、ブラック・ジャックに依頼します。

しかし、ブラック・ジャックはきっぱりと断ります。過去に行った同様の手術では、視力が5分しか回復しなかったからです。「五分たったらまたもとにもどってしまう じゃあなんのために手術するんですかね」と、医師としての見解を述べます。警察との意見は対立し、押し問答になりますが、最終的にブラック・ジャックは考え直し、手術を引き受けることにしました。それはなぜだったのでしょうか。

マンガの詳細、その後の展開はこちらから
※m3.comへのログインが必要です

70年代の漫画が先取りした「ナラティブ・ベイスト・メディスン」

手術の直前、「見えるようになるの?」と聞く患者に、ブラック・ジャックは「ああ ほんのちょっとのあいだね」と正直に伝えます。その後、つかの間の視力を取り戻した患者が外の景色を見たがると、黙って希望を叶えます。わずかにほほ笑んで「きれいね けしきって」とつぶやき、涙を流す患者の横で、静かにたたずむブラック・ジャック。その姿は、患者の語りを受け止め、全人的な観点から医療を行うNBM(Narrative-Based Medicine、物語・語りに基づく医療)のようにも見えます。

このエピソードが描かれた1974年は、まだ医療界にEBM(Evidence-Based Medicine、根拠に基づく医療)も普及していない時代でした。EBMは1990年代初頭にカナダの医師から唱導され、医療水準を押し上げたと言われます。しかし、必ずしもすべての患者に有効ではないことがわかってきました。もともと、EBMは「科学的根拠(エビデンス)」「医療者の専門性や経験」「患者の価値観」などを統合し、多角的な視点からより良い医療を目指すものでしたが、「科学的根拠(エビデンス)」に偏重する傾向が生じました。その結果、軽症の患者では問題にならなくても、このエピソードのように治療が困難な患者には、EBMだけでは必ずしも十分な満足を得られなかったのです。

この課題を補完する意味で、1998年にイギリスの医師から提唱されたのがNBMでした。患者の個人的な物語、すなわち価値観やこれまでの人生、病気に対する気持ちなどに医療者が耳を傾けることで、お互いの信頼関係が育まれ、満足度も向上していくと考えられています。図らずもブラック・ジャックは、この流れを先取りしていたのかもしれません。

現代の医療でも、一生付き合わなければならない病気やけがは少なくありません。そうした際、治療方針の決定や患者との関わり方として、ブラック・ジャックの取った行動はひとつの参考になるのではないでしょうか。

今後のキャリア形成に向けて情報収集したい先生へ

医師の転職支援サービスを提供しているエムスリーキャリアでは、直近すぐの転職をお考えの先生はもちろん、「数年後のキャリアチェンジを視野に入れて情報収集をしたい」という先生からのご相談も承っています。

以下のような疑問に対し、キャリア形成の一助となる情報をお伝えします。

「どのような医師が評価されやすいか知りたい」
「数年後の年齢で、どのような選択肢があるかを知りたい」
「数年後に転居する予定で、転居先にどのような求人があるか知りたい」

当然ながら、当社サービスは転職を強制するものではありません。どうぞお気軽にご相談いただけますと幸いです。

エムスリーキャリアは全国10,000以上の医療機関と提携して、多数の求人をお預かりしているほか、コンサルタントの条件交渉によって求人を作り出すことが可能です。

この記事の関連キーワード

  1. ノウハウ
  2. コラム

この記事の関連記事

  • コラム

    病名告知…誰に、何を、どこまで伝える?

    数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。今回は、エピソード「侵略者」より、患者の「知る権利」「知らされない権利」に医師はどう応えるかについて考えます。

  • コラム

    「なぜ医師に?」キャリア迷子の処方箋

    数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。今回は、エピソード「三者三様」より、自分の意思でキャリアを歩む大切さについて考えます。

  • コラム

    ネコ、赤ん坊、代議士がケガ…誰から救う?

    数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。『ブラック・ジャック』のストーリーと、現代の医療現場を照らし合わせながら、さまざまな角度で考察する本企画。今回は、エピソード「オペの順番」より、トリアージについて考えます。

  • コラム

    どうする?医療費を払わない患者の懇願

    数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。『ブラック・ジャック』のストーリーと、現代の医療現場を照らし合わせながら、さまざまな角度で考察する本企画。今回は、エピソード「サギ師志願」より、医療費未払い問題について考えます。

  • コラム

    診療拒否が正当化、変わり始めた「応召義務」

    数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。『ブラック・ジャック』のストーリーと、現代の医療現場を照らし合わせながら、さまざまな角度で考察する本企画。今回は、エピソード「曇りのち晴れ」より、医師の応招義務(応召義務)について考えます。

  • コラム

    ガイドラインにない“医師の仕事”実感した日々

    ドクターと医学生の交流を目的とし、将来の選択肢を増やすためのイベント「Doctors’ Style」の代表を務める正木稔子先生。今回は、医師が“命”に寄り添うことについて語ります。

  • コラム

    患者からの怒り、どう受け止める?

    数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。『ブラック・ジャック』のストーリーと、現代の医療現場を照らし合わせながら、さまざまな角度で考察する本企画。今回は、エピソード「復しゅうこそわが命」より、患者から理不尽な怒りをぶつけられた時の対応について考えます。

  • コラム

    しがらみに縛られたキャリアの行方

    数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。『ブラック・ジャック』のストーリーと、現代の医療現場を照らし合わせながら、さまざまな角度で考察する本企画。今回は、エピソード「ふたりのピノコ」より、医師の働く姿勢について考えます。

  • コラム

    医師が円満に引退するコツ

    数ある医療マンガの中でも、医師から絶対的な支持を集める『ブラック・ジャック』(手塚治虫)。改めて読むと、その中には現代医学でもなお解決策が出ていないような数々の「普遍的な問い」が発せられています。『ブラック・ジャック』のストーリーと、現代の医療現場を照らし合わせながら、さまざまな角度で考察する本企画。今回は、ストーリー「助っ人」より、医師の引退について考えます。

  • コラム

    今だから思う、研修医が報・連・相できない理由

    ドクターと医学生の交流を目的とし、将来の選択肢を増やすためのイベント「Doctors’ Style」の代表を務める正木稔子先生。今回は研修医時代の失敗から学んだことについて語ります。

  • 人気記事ランキング

    この記事を見た方におすすめの求人

    常勤求人をもっと見る