形成外科医であるババロア先生のもう一つの顔は、医療系メタルバンド「Anatomy」のボーカリスト。3月にリリースしたミニアルバムが、発売週にディスクユニオンヘヴィメタルチャートで1位を獲得するなど、バンドの注目度も上がっています。医師兼バンドマンというユニークなキャリアを歩み始めたババロア先生に、医師を志したきっかけやバンド活動への思いを伺いました。(取材日:2019年5月28日)
助けられたから、助けられるようになりたい
――医学部を目指すようになったきっかけを教えてください。
高校3年生のとき、私が甲状腺がんになり、同じ年に父が大動脈解離で救急搬送されるという経験をしました。
甲状腺がんになって、それまであまり縁のなかった病院に初めて入院して、先生方に大変お世話になりました。ただ、医学部に挑戦しようと思ったのは、父の病気の方が大きかったです。父がオペを受けるとき、助けてほしいと思う一方で、これがお別れになるかもしれないという気持ちもあったんです。8時間を超えるオペが終わった後、家族控室まで執刀医の先生が来てくださり「無事終わりましたよ」と声をかけてくださって――。人が人を助けることの凄さを目の当たりにして、私もそういう仕事に就きたいと思うようになりました。
医学部は偏差値的にかなり難しいイメージがあり、私には無理だろうなと思っていたのですが、人を助けられるようになれるのなら挑戦したいと思ったんです。ただ、入院などで準備不足だったこともあり、現役では不合格。親の希望もあって国公立に受かるまで頑張り、合格できたことが人生の大きなターニングポイントになりました。できないと思っていたことを成し遂げられた成功体験が自信につながりました。
――医学部に入ってからは、どのように過ごしましたか。
医学の勉強は興味深く、楽しんで取り組めました。大学の図書館が24時間開いていたので、泊まり込んで勉強していましたね。いわば、図書館に住んでいるような状態でした。
4年生のときには、学生でも研究ができるMD-PhDコースに入って、法医学の研究をしました。大腿骨を使ってご遺体の身長を推定する研究で英語の論文を1本書き、学会でも発表して優秀賞をいただきました。
その学会発表がきっかけで、元杏林大学教授の松村讓兒先生からお声がけいただき、先生の著書『イラスト解剖学 第9版』(中外医学社)に研究結果を掲載していただいたんです。解剖の授業が始まったとき、最初に手に取ったのが『イラスト解剖学』だったので、その本にまさか自分の研究が載るなんて、信じられませんでした。この経験から、アウトプットすることは大事だと実感しましたね。
プロとして、バンド活動を行う理由
――バンド活動はいつごろから始めたのでしょうか。
ずっとピアノを習っていたので、中学でバンドを始めたときはキーボードを弾いていました。初めてボーカルを担当したのは、高校のときです。大学5年生でAnatomy(アナトミー)という現在のメタルバンドを始めるまでは、いわゆるコピーバンドをしていましたね。Anatomyになってからは、全てオリジナル曲です。CubaseというDTM作曲ソフトを使って、ドラム・ベース・キーボード・ギターの全パートを作曲し、作詞もしています。
――メタルを始めて以降は、プロ志向をお持ちだったのですか。
そうですね。自分にしかできないものを発信して、それを聴いて「かっこいい」、「楽しい」と思ってくれる人がいるなら、プロとしてどんどん表に出ていくべきだと思うんです。多くの人に認知されることが新たなオファーにつながって、可能性もさらに広がりますから。
それに、バンド活動にはお金がかかります。それを全部自費で賄っていたら、いつかは終わりが来ると思います。でも、プロとしてちゃんと利益を出しながらであれば、活動自体も続けていけるし、資金を元にもっともっといいものができる。そう考えると、この活動を大きくしていくためには、プロになることが絶対必要だと思ったのです。
マッチングでも、「バンド活動を続ける」と明言
――大学までは北海道で過ごして、初期研修で東京の病院を志望したのはなぜですか。
北海道だと慣れ親しんだ人達が多く、私にとって甘えが生まれやすい環境だと思ったんです。東京はいろいろなところから人が集まってくるし、頼れる人もいない。敢えて厳しい環境に身を置いて、医師として成長したいという気持ちがまずありました。バンド活動をするにも、東京の方がチャンスが多いと思ったのも理由としてあります。私の拠点が変わったことで、バンドの楽器隊が全員替わりました。いまのメンバーは、東京で新たに探した人たちです。
――マッチングの際に、バンド活動のことはオープンにしていたのでしょうか?
面接で「学生時代一番頑張ったことは?」と聞かれたら、バンド活動のことを話していました。変に隠して活動しにくくなっても困るので、研修医になってからも続けますとも話していましたね。そこは、私にとって譲れない部分だったので――。
一方で、そう伝えることで、プラスの印象を持たれにくいことも分かってはいました。学生時代から“バンドをやっている”ということで、休みそう、適当そうというイメージで見られがちでしたし、そのことにも慣れてしまいました。テストで他の人が悪い点数でも何も言われませんが、私が悪い点数だと「やっぱりバンドやっているからだ」って、言いたくて仕方ない人が多いんですよね(笑)。そう言われないために、学生時代は人一倍勉強して学年1位になったこともあります。今後も医師業も、バンド活動も全力でやるスタンスは変わりません。努力していることを殊更にアピールしたりするのではなく、やるべきことをしっかりやるだけ。当たり前のことを地道にこなし、誠実に仕事に向き合っていけば、誤解は解けると思っています。
後編では、現在のワークスタイルや今後の展望について伺います。
従来の価値観に とらわれない働き方をしたい先生へ
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