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視点の“ズレ”はむしろアドバンテージ―医師と二足のわらじvol.15(後編)

2019年6月15日

産業医・スポーツドクターとして活動する傍ら、テニスプレーヤーとしてもトップを目指し研鑽を重ねている岩井勇策先生。先生が自分自身に実践している“整形外科的集学的治療”とは、一体どのようなものなのでしょうか。医療とテニス、どちらにも全力で向き合う原動力を教えてくれました。(取材日:2019年4月12日)前編はこちら

疾患のみではなく、動き全体から最適なアプローチを考える

──先生が考えている “整形外科的集学的治療”について教えてください。

これは僕が勝手につくった言葉です(笑)。端的に言うと、多くの治療家でよってたかってその人の整形外科的な課題に向き合い、解決へと導こうということです。

整形外科の医師は診断と手術のスペシャリストです。けれど個人的に、多くの整形外科的な問題については、手術の前にリハビリテーションで改善できる部分が少なくないのではと感じています。

たとえば、変形性膝関節症に対するリハビリテーションについて、医師向けの教科書では太腿の前の部分を筋トレするくらいしか紹介されていません。しかし、医師以外の治療家から学べば様々な治療法が存在します。

手術をすれば疾患自体は改善したように感じるかもしれませんが、皮膚を切開すれば皮膚と皮下組織が癒着し全身の動きに悪影響を与えるリスクもあります。まずはなぜそういう膝になってしまっているのか、動作や骨の位置関係から原因を推測し、最適なアプローチを考えなければなりません。そのためには、医師のリーダーシップのもと、理学療法士・柔道整復師・鍼灸師・あんまマッサージ師・トレーナー・無資格の施術家といった治療家の力を結集し取り組む必要があります。

──そうした考えを持つようになったきっかけは何だったのでしょうか。

初期研修中に予防医学・スポーツ医学と名前のつくあらゆる場所へ見学に行かせてもらい、多くの先生にお話を伺った経験が根底にあると思います。そうした勉強会で様々な手技を実践し、動作が瞬間的に変化する様を目の当たりにしたインパクトはとても大きかったです。

1つの疾患に対して、アプローチ方法は無数にあります。理学療法士の先生の中でも、たとえばドイツ徒手や入谷式足底板、リアライン、PRI、MSI、マッケンジー法など、私が知らないものも含め多くの流派がある。様々な課題に対して、どのアプローチが最適なのか学ぶためには、実践し効果を体感することが重要です。だから、まずは私自身がテニスをする中で直面する様々な課題に対して整形外科的集学的治療を試みようと、様々な治療家の方にお願いして診ていただいています。

QOL低下の原因は“動き”にある

──効果のほどはいかがでしょうか。
多様な視点からアプローチすることで改善幅はぐっと大きくなりましたし、予防にもつながっていると実感しています。たとえば以前は左膝に強い痛みがあったのですが、現在は全く感じません。周囲の方から「こういう症状があるのだけどどうすればいいですか」と相談を受けた際も、「この順番でこれとこれとあの施術を受ければきっとよくなる」という見通しが自分の中で持てるようになってきました。

個人的には、こうした整形外科的集学的治療は全ての方に有効だと考えています。まだ痛みがない方でも、動作の改善点は見つかるはずです。気がつかないうちに良くない動作を重ねたことで、将来的に整形外科的な問題へと発展してしまうリスクがあります。

チーム医療の中心を担う医師がそれぞれの技術について学び、適切なタイミングで適切な介入をコーディネートすることができれば、患者さんのためになるだけでなく、医療費の削減にもつながるのではないでしょうか。ただ、現在の医学部ではこうした内容を学ぶ機会がありませんし、医師になってからリハビリテーションの様々なテクニックを勉強する機会もありません。そこで始めたのがMSC(メディカルスポーツコミュニケーションズ)の活動です。

──具体的に、どういった活動をされているのでしょうか。
MSCは名前の通り、スポーツ医学や予防医学の知識をアスリートや一般の方々へ伝えることを目的にしています。主な活動内容はセミナーの開催です。これまで得た様々な治療家の方々や医師、スポーツ指導に携わる方々とのつながりを活かし、知識の共有や人脈形成に寄与できればという思いから始めました。

「なぜ、自分は医師になれたのか?」

──産業医、テニスだけでなくそうした活動を行うモチベーションはどこからくるのですか。

大きく分けて2つあります。

1つ目は、使命感です。「医学部に入りたい」「医師になりたい」と願う人がたくさんいる中で、なぜ、自分が医師になれたのか。私の中には、ずっとそんな問いが浮かんでいました。そして、きっと私なりに果たすべき役割があるのではないかと考えたのです。私の視点は少し変わっているかもしれないけど、だからこそ、病院の外から貢献できることがあるのではないか。そんな思いが、予防医学活動につながっています。

2つ目は、初期研修中に患者さんの死に立ち会った経験です。自分の人生に対して「やりたいことをやってきた」と満足して、周囲に感謝をしながら亡くなられている方もいる一方で、体が動かなくなってから「もっとこうしていれば」と後悔して亡くなる方もいらっしゃいました。幸せに人生を全うするには自分がやりたいことをやる。そのためには体が動くことが大切であると痛感しました。この経験が、私自身やりたいことを貫く原動力になっています。

とにかくひたむきに自分のやりたいことを貫いていきたい

──現在はテニス選手活動を自身の最重要事項としているとのことですが、最終的には医師とテニスプレーヤー、どちらに軸足を置いて活動していきたいとお考えでしょうか。

よく聞かれるのですが、私の中では医療もテニスも共通の目的のためにやっています。

私の根本には、古来中国より伝わる「未病」があります。これはスポーツドクターの辻秀一先生から学んだ言葉ですが、“最も良い医師は病気を未然に防ぐ”、つまり病気になる人を減らし、縁ある人の健康と幸せに貢献することが医療の原点である、という考え方です。そういう意味では、テニスプレーヤーとして結果を出し、観客を喜ばせたり感動させたりすることも、人々の健康につながると思っています。だからどちらかに軸足を置くというよりは、自分の目標をかなえるために必要な活動をそれぞれでやっていくというスタンスです。

──具体的な目標や展望があれば教えてください

今年の目標として、テニスではまず全日本選手権に出ること、YouTubeでは「スポーツドクター岩井」のチャンネル登録者数を1000人以上にすることを目指しています。

YouTubeでの活動は、今後より重要になっていくだろうと考えています。というのも、予防医学・スポーツ医学を普及するためには幼稚園~大学生といった若年層へのアプローチが欠かせないからです。産業医の仕事などで保健指導をしていて感じるのは、30才を超えてから健康への意識を向上させることは非常に難しい、ということです。歯磨きが幼少期から習慣として浸透しているのと同様に、予防医学・スポーツ医学の教育も幼いころから習慣づけていく必要があります。

動画配信を通じ若者にとって面白い・身近な存在になれれば、そうした層にもメッセージを届けられるのではと考えています。そのために、動画ではあえてテンションの高いキャラクターを演じたり、動画編集者の協力を得たりしながら、チームで戦略的に活動しています。

MSCでの活動としては、全国にMSCのメンバーを派遣し、健康体操広めたり運動指導を実施したりということも視野に入れています。

──他の人がやっていないことに挑戦するのは楽しそうですが、苦労もあると思います。どうすれば一歩踏み出せるでしょうか。

私は病院の外に出て、様々な治療家から学んだことで視野が広がりました。中には無資格でも非常に洗練された手技をもつトレーナーの方もいます。病院の外の世界に触れることは、病院の中を客観視する良い機会になりました。もし、なにか新しくチャレンジしたいことがあるならば、病院外でつながりを広げておくのはとてもお勧めです。

今この記事を読んでくださっている先生の中には、医師以外のやりたいことをずっと我慢してきた、という方もいるかもしれません。私は「本当にやりたい事をやる人生」こそが、個人の幸せという観点からも、予防医学の観点からも最も重要だと考えています。先生方の挑戦を心から応援しています。

YouTubeチャンネル「スポーツドクター岩井」
https://www.youtube.com/watch?v=E6f7I8uVOnc

 

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